ミロシェビッチは大統領の座を追われ、現在は虜囚の身、トゥジマンも鬼籍に入り、その他の主要なプレーヤーの大半も既に退場した現在、記述は少々古さを感じさせる部分もある。
しかし、クロアチアの情報戦略の成功により、セルビア=悪、クロアチア=善と見られがちであった執筆当時の状況を考えると、クロアチアにセルビア以上に古典的かつ過激な民族主義が存在することなど、一種「どっちもどっち」的な側面があることを指摘していることは非常に重要なことである。
当時の日本ではまだほとんど取り上げられることもなかったコソ!ボ・マケドニアに居住するアルバニア人という火種について多くのページを割いていることも著者の専門性・先見性を証している。
ユーゴスラビア消滅にいたる背景とそのの初期の過程に関する同時代的記述は非常に有益であると同時に、ユーゴスラビアとその消滅に関する本質を穿った記述は十分に現在にも通用するものである。
ミロシェビッチが大統領に就いてからはユーゴはどのように変化したか。この本では民族、宗教、周辺国の人々の考えを客観的に書かれている。民族や宗教についてもわかりやすく解説してあり、たいへん読みやすいのでユーゴについてTVでなんとなく見ているけど問題の本質がよくわからない人にはお勧めの本。
この本を読み終えてしばらくしてから民衆革命が起きた。(2000年10月)
ユーゴの今後、混乱もしこりもまだまだ残るけど、期待を持って見ていきたい。