たとえば、「オマージュとしての絵画」という章では、ゴッホやゴーギャン、モネやマネなど印象派の巨匠たちの作品を、背景に描かれた「画中画」である日本の浮世絵に注目させ、「ジャポニズム」を軸に解説。さらにページを費やし、浮世絵がもたらした当時の絵画全般への影響を、多くの図版を用いて紹介する。また、さまざまに描かれた「モナ・リザ」像が登場する「引用される絵画」の章では、シャディー・リーやワン・シンウェイといった現代画家の作品も取り上げて鑑賞の幅を広げ、かつ多彩にしている。
大小たくさんのオールカラー図版と文章のほかに、鑑賞の助けになる事項解説がイラストや吹き出しで付け加えられた、情報量の多い雑誌風の構成には躍動感があり、その部分だけを見たり読んだりしても楽しめる。図版に付された絵のデータは所蔵館まで書かれていている。巻末の人名・事項索引、年表など、西洋絵画史の教科書としての体裁と役割も備えた、美術愛好家から専門家まで幅広い読者を納得させる書となっている。(中村えつこ)