中国の歴史・思想史を概観しながら中国人独特のメンタリティに迫る
★★★★☆
春秋・戦国時代から現代に至るまでの中国の歴史・思想史を概観することで中国人のメンタリティに迫ろうという試みの書です。高校の時に学んだ筈の世界史を思い出しながら興味深く読みました。(著者が元高校の先生なだけあって、かなり"歴史の教科書"っぽいです)
中華思想を軸として、"宗教"(儒教・道教・仏教・他の宗教・個人崇拝)が如何に政治的に利用されてきたかが詳述されています。「儒教の道徳は中国社会のせいぜい努力目標だった」ということが良く分かります。(王朝が転覆するときに科挙に合格した役人(=儒教に通じている筈の役人)がどう行動したかを読めば、なんて現実主義的な人達なんだ、ということが分かります。日本の"武士道"(例:"赤穂浪士")とは対照的です) 君主自身は儒教なんてそっちのけで自身の不老不死を追求し神仙思想に取りつかれるパターンが繰り返される処が興味深いですね。("ワンマン社長の会社"でも有り勝ちな事態ですが)内政の失敗による不満の捌け口を外国に向けるのも常套手段だったのですね(→今に始まった話ではない)。日本への見方が特に厳しい歴史的理由も理解できました。
「上に政策あれば、下に対策あり」という言葉でも表わされる民間人のメンタリティ(処世術)に関するキーワードも紹介されています:鶏口牛後、面従腹背、人治主義、奸雄好み(人気度:曹操≫劉備)、享楽主義的人生観、徹底した民族意識(←元の支配の影響)、「国民的英雄」vs「国民的売国奴」の創出、「歴史は水に流す」のでなく「歴史は繰り返す(→だから用心せよ)」という歴史観。確かに則天武后と西太后は瓜二つですし、王朝崩壊もかなりパターン化しています。
本書の最後で王朝崩壊のパターンがまとめられ、今後の中国に関するシミュレーションが示されています。今の中国の状況の報道を見る限り、今後20年以内に歴史的変革が起きても不思議ではありません。(2008-10の大イベント後ならいつでも?) その時に慌てるのではなく、過去の歴史を参考にしつつ想定しておくと良いかもしれません。大変参考になりました。
もっと図表・写真があれば読み易かったかも。特に年表や各時代での中国の地図(国境,都市名)などを載せると分かり易い本になった筈で、そこが残念です。(→読者への宿題?)