教養主義に走っているととれなくもない硬質な文章が散見されますので、映画なんて楽しければそれでイイじゃないかと思う読者には不向きな本かもしれません。私自身も映画のイコン性みたいなことを云々されるのはあまり好きではないので、この手の本はどちらかというと今でも敬遠ぎみです。しかしそんな私にもこの本はうるところがある書でした。
100年以上もの歴史を有するに至った映画の世界ですから、その歩みの中でひとつの時代の作品や作家が次の時代の同業者に強い影響を及ぼすことは避けられないわけで、そうした歴史の流れを知ることは、映画を見る上での自身の幅を広げることにもつながります。それは決して無益なことではありません。要はその幅を広げてくれる書そのものが面白いか否かだといえるでしょう。
本書の視点は非常にバランスのとれた公正なものだと感じることがたびたびありました。例えば「レイティング・システム」を論じた文章では、行政の介入を阻む防波堤としての役割を担わせるべく導入されたこの自主検閲制度を詳解した後で「作品の価値を性描写の有無だけで判断しているとの批判がつきまとっていくこととなっていく」と短所についても併記するといった具合です。功罪について偏りなく述べている点には大いに好感が持てました。
ただし大いに不満を覚えた点もあります。10年ずつ区切って必見映画リストを掲げていますが、1990年代必見の映画に「ショー・ガールズ」や「バットマン・リターンズ」が入っているのには首肯しかねました。