映画はフィルムに映っているものが全てじゃないと思わされる
★★★★★
日本映画の19世紀末から20世紀末まで100年の歴史の概要を一冊の本で学ぶことが出来ます。
日本映画は、特にアメリカと比べて、敗戦時にフィルムが焼かれたりしたなどの理由から、悲しいことに現存する黎明期から戦前の作品が少なく、ハリウッド映画のように手軽にワンコインDVDでパブリックドメイン作品(『風と共にさりぬ』『カサブランカ』のような過去の名作)を楽しむということが余り出来ず、こういった本でその頃の作品群を知ることが、専門家ではない私の様な一般人の、日本の過去の名作との接し方です。
この本の作者は石原裕次郎や宍戸錠などが活躍した日活の無国籍アクション作品群を愛して止まない人のようですが、そのことだけを詳しく説明することはしておらず、黎明期の日本映画は男優が女形として女性を演じていた為、女優が存在しなかったという話や、満州にあった映画会社、『満映』の話など、現在ではフィルムが残っておらず、フィルムに映ったものを見ることが出来ない時代の作品のことも詳しく解説していて、とても興味深く読ませていただいたという感じです。
個人的な感想としては、この筆者は日本映画の表現を発展させてきた人々や、社会的なメッセージを込めた作品を作ってきた人々を高く評価していて、娯楽作品を数多く作って来た人はあまり評価していないようで、黒澤明の功績は評価しつつも、三島由紀夫の発言を引用して『政治認識はまあ中学生程度』などと書いたり、松竹映画の80年代以降の低迷を、寅さんシリーズを作り続けた山田洋次監督が原因とも取られかねない様な書き方をしていたりするところが気になりました。酷評しているなどというほど激しい書き方ではないのですが、多少の偏りが感じられました。
教養的に知ってて損はないです
★★★★☆
映画を純粋に映画として楽しめばいいのに、これはあれの系譜だとかオマージュだとかなんだかんだと考えながら観て、何が面白いのかなあなんて思ってしまうんです
けれど、大まかな流れ、くらいは知っていてもいいかなと本書を読んで思いました
文化が文化として単独で成り立つはずは無く、無論これは政治、経済その他諸々のことに云えるのですが、そういったことを意識できる程度の映画論は面白いなと思います
しかし本書にあるように、やっぱり純粋に映画を見て感動した!面白かった!という気持ちが一番大切で、批評にも必要ですよね
昔の映画批評があったかくてほほえましかったです
重みがわかる一冊
★★★★☆
単なる映画ガイドではない。映画の一〇〇年の歴史が積み重ねられ、その重さがよくわかる一冊。この著者のほかの著書も読んでみたくなりました。
日本映画のデータベースの一つとしての意義。
★★★☆☆
この批評家の映画観はきわめて明確である。しかし私には到底肯定し得ない。例えば、日活映画への賛美と、松竹映画への卑下に象徴される、アバンギャルドな映画の擁護、新左翼運動影響下の映画への親近感等々。 日本映画の題名、監督、製作年、製作会社を知る手段として、巻末の索引は活用できる。
日本映画100年の歴史を半日で散歩する感じ
★★★☆☆
手軽に読める日本映画のガイドブックだと言えるでしょう。とはいえ、新書にありがちな無味乾燥な啓蒙書には終わってはいなくて、著者である四方田犬彦ならではのユニークな言い回し、着眼点があって、手練れの読者でもじゅうぶんに楽しめると思います。ただ、気になったのが、あらかじめ外国語に訳されることを念頭に置いているかのような、持って回った紋切り型の説明がたいへん多くて閉口させられました。また、人名の誤記は失礼なことだと思います。普段は他の書き手に対してこの手のミスにうるさい著者だけに、ご自分でも気をつけていただきたいと思います。