本書は、悪く言えば人気作家の馴れ、良く言えば作家としての円熟を感じさせる出来上がり。ストイックな面はやや背景に引っこみ、突如として爆発する主人公の衝動・暴力と料理や釣りの細かな描写と巧みに織り込まれた男女の愛憎がほどよくブレンドされ、ぶっきらぼうさは影を潜めており、ぐいぐいストーリーに引き込まれていく。北方作品の中では特にエンターテインメント性の強い仕上がりとなっており、十分楽しめる。
ただ、第8章「夜へ」の終わり方は、北方作品にしては意外な終わり方。作者の女性観に何か変化があったのか。この意外さが将来さらに展開されるのか、この作品だけで終わるのか、今後の作品も目が話せない。