アユを通じた川の人の関わり読本
★★★★☆
アユを通じて川と人の関わりを見つめなおしてみたい人にお勧めの一冊。都心の川を離れ、四国の川を中心に日本の清流が多く紹介され、守るべき川の姿がよくイメージできる内容。
河川環境についての意識が変わりますよ
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著者はアユの研究者だ。自身で「悲しいかな、体を使わないと脳が機能しないタイプの人間」と書いているとおり、実際に川に潜って見たり感じたりしたことを大切にするタイプらしい。そんな行動派の研究者が書いた本なので読んでいても楽しいし、文も平易で読みやすい。
第1章では、釣りのベテランですら知らなかったり、誤解したりしているアユの生態が書かれている。例えば、アユが黄色くなる本当の理由や、放流種苗の違い(良し悪し)による群れの作り方の違い、アユの味の謎など、アユ釣りファンには必読の内容だ。
第2章では、著者が全国各地の河川を訪れた際に、見たり感じたりした河川環境についての危機感が語られている。川の生き物の代弁と言ってもいい。ふだん人目につかない水中の環境悪化を、著者の潜水観察の目を通して知ることができ、あらためて人間の生活の陰で多くの生き物が犠牲になっていることを考えさせられる。批判ばかりではなく、なぜそうなってしまったのか分かりやすく書かれているのがいい。日ごろ河川環境についてモヤモヤと思っていたことの答えがみつかり、何度も「そうだ!」と思わされた。
第3章では、全国各地の先進的な天然アユ保護の取り組みを紹介している。これまで一般的だった「アユが釣れないなら放流すればいい」という考え方が間違っていることを痛感させられる。「今、アユには冷水病が蔓延しているが、アユに関わる人には“放流病”が蔓延しているのかもしれない」という一文には、おおいに頷いた。河川漁協の関係者やアユ釣りファンには、ぜひ噛みしめるように読んでほしい内容だ。
第4章では、河川環境を次世代へ引き継ぐことの大切さや、その手法の提案が哲学的に書かれている。著者は「ストイックに自然を守るのも大切だが、守ることで得をするという方が私は好きである」という考え方の人だ。大いに共感できた。人によっては河川環境についての考え方が大きく変わるだろう。
アユの生態を知ることで、失ったものがみえてくる
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著者の前作品『ここまでわかったアユの本』が出版された2006年から、著者や先進的な漁協が呼びかけ人となり「天然アユを増やすと決めた漁協のシンポジウム」が3年連続で行なわれた。天然アユを増やすことを目的に、全国各地から漁協が集まり、内水面漁協にとっても歴史的な大会であったようだ。『天然アユが育つ川』はその 3年間に紹介された先進的な漁協の取り組みや、アユが魚道をのぼるための具体的な工法等も紹介している。この本を読む多くの読者は、私のように漁協に対するイメージが変わるのではないだろうか。天然アユを増やすために、漁協の人たちがどれだけ努力をしているかが、この本から伝わってくる。
それでは「天然アユが育つ川」が増えていくために、市民である私たちひとりひとりは何ができるだろうか?その答えを引き出す鍵も、この本にはたくさん紹介されている。私たちの心の中で失ったものを見つけることで、天然アユを増やすことも夢ではないし、アユの生態を知ることで、ふるさとを活力ある地域社会にすることも、可能かもしれない。
この本は、川とともに暮らす私たち日本人の、生き方そのものを見つめなおす本でもある。