空海の青年期をまるで見てきたかのように描写しているのが凄い。
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物語は全6章あるうちこの巻は1、2章をまとめている。私自身、大学で書道を専攻していたせいで、どうしても空海(後に弘法大師と呼ばれるほどの名筆家でもあった)を避けて通ることができず、今まで梅原猛の著書など読んでみたが、読み進むにつれその思考は難解で果ては全く理解できないものとなっていた。そんな中でこの書が出たので読んでみたが、第一の印象は「楽しい」ということである。決して簡単なことではないのだが、小説として空海(佐伯真魚・さえきまいお)を知ることができるのは今までになかった画期的な著書であると断言できる。経典や仏像、また情報を巧みに仕入れてくる赤麻呂と真魚のコンビは痛快の至りで、真魚は秘密宗の手がかりを捜すべく渡唐への希望を抱くが、伊予親王より出家してもよいとの許しを受け教海と法号する。二人は渡唐のため、また秘密宗の手がかりを掴み掛けるが、旅の途中で思わぬ水難に見舞われ、教海は渡唐への困難にぶち当たる。そこには土地の富豪や賊が跋扈しており、造船を阻む闇の組織が蠢いていた。出家しながらも人々を安堵させようと歩く教海であったが、自分の中でまだ整理されていない思いに複雑な心境を持ちながら、秘密宗がこれを明らかにしてくれるものと信じてひたすら旅を続けるのであった。
密教を解きほぐし、生死を越えたかなたへ
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あの空海を解きほぐし、「読み物」意識で書かれたサスペンス的時代小説である。
若い空海が、「秘密宗」を知ることになったいきさつや、伊予親王やその兄弟たちが巻き込まれる王権を巡る陰謀など、奈良から平安にかけての仏教や政治などを描いた歴史小説。
赤万呂の過去、殺人事件や船大工の行方不明事件など 赤万呂の人物像が強烈で、主役の真魚(教海)が影が薄いほど。 時代の最先端への憧れが、唐への渡海、そして人を救う道として、儒教、道教、仏教の三教があるが、やはり仏教を第一義とする。四天王像を見事に描き出す阿刀赤万呂。経師の一族の末席に連なる人物で、真魚のおじとは姻戚関係にあたる男。
上京した真魚は、桓武天皇の皇子・伊予親王の家庭教師であるおじ・阿刀大足から、仏教における守護神・四天王のように親王をお守りするようにと命じられる。伝わった「秘密宗」の奥義を説く経を、赤万呂と共に追い求める。4章以降は空海と伊予親王の関わりの謎も明らかになってくる。
空海の戒めのことば「生れ生れ生れ生れて生の始めに暗く、死に死に死に死んで死の終わりに冥し」すなわち、何も学ぶことがなければ、真実の一つも得られないというのである。
繰り返される生と死の中から「魂の解放」を願わざるをえないのである。