企業合併に関する本では、財務面・法務面での本は多いが、このように定性的要件をまとめようとした本は、他にはないのではないか。その意味で、チャレンジングな試みは評価したい。
しかし、本書で展開されている分析には、正直、物足りなさを感じた。「ビジョンがあって成功した」「ビジョンがなくて失敗した」という実例は豊富だが、帰納法的アプローチに終始しており、例えば、なぜそのM&Aにはビジョンがなかったのか、他に失敗の原因となったことはなかったのか、というさらに一歩踏み込んだ分析は見られない。
M&Aは、多くの利害関係者の様々な思いが錯綜するものであり、「分かっているけど思い通りにならない」というのが現実的であり、「ここはゆずれないけど、ここはゆずる」という妥協の産物である面があるのもまた事実であろう。画一的な論理展開で説明しきれるものではないのではないか。
和訳のこなれなさもあり、冗長に感じられるのも残念だ。しかし、M&A自体は今後も増えていくだろうし、この本が提示しているテーマは重要なわりに議論が避けられてきたテーマだと思うので、この本が試金石となって今後の発展に期待したい。