三島由紀夫の死について
★★★★★
この本は、作家の中山雅仁の巻末論文「三島由紀夫の死」によって救われている。インタビューの内容は、過去へのこだわりと現状容認を抜け出していないし、監修者の文章は論外だが、「三島…の死」の思想性と身体を持った強い言語は、引き裂かれ身悶えしている感覚で、三島の死に迫り、掘りおこし、現在の意味を探り当てている。
三島没後35年にしてようやく「楯の会」メンバーが語り始めた!
★★★★★
三島没後35年。この間、自らの命を絶った三島・森田に関する書は数多く出されてきましたが、三島・森田と共に行動してきた「楯の会」メンバーの動向は、ずっと影を潜めたかのように記されることはほとんどありませんでした。本書で、ようやく「楯の会」メンバーたちが語り始めたという点で、待望の一冊であることは間違いありません。欲をいえば、もっと多くを語って欲しかった。続編もあってほしい。オススメです。
三島事件とは何だったか?への第1級資料である
★★★★☆
三島事件の時私は小学校4年生であった。学校から帰ると三島と同世代の父が興奮気味に「これからどうなると思う」と、三島の「み」の字も知らぬ私に問いかけたことを今でも鮮明に記憶している。当時はなにも解らなかったが、高校生の頃から三島の小説をたくさん読んで、そして彼の思想も研究した。しかし、彼の文学には惹かれはしても天皇崇拝を中心とした思想は理解できず、ましてや何故あの日あの場で切腹までしなければならなかったのは全然解らないまま時は過ぎていった。「火群のゆくへ」は三島が結成した民兵組織「楯の会」の元メンバーたちの三島と、彼とともに切腹した森田必勝への回想、証言を丹念に集め、当時の状況をリアルに再現している。そこには当事者しか解らぬ内部の人間模様、ドラマが多々描かれている。特に最後の決起をともにした人の証言は貴重である。また、決起に選ばれなかった者のうち二人が野村秋介とともに経団連襲撃事件を起こした経緯も初めて知ることができた。以上から、三島由紀夫という類い希な個性を持った人間にいささかでも興味がある人には必読の書であろう。ただ1点の不満は三島の男色については全く触れられていないことだが、「元楯の会会員たちの心の軌跡」という副題に似つかわしくないので割愛されたのかもしれない。それにしても三島がもしも生きていて、今の日本をみたらどう思うだろう?彼が死を賭して訴えた改憲が現実になろうとしている(私は改憲に大反対です)が、1970年頃よりも遥かに腐り果てた政治家どもが支配する、アメリカの属国に落ちぶれ果てたこの国に、三島由紀夫なら絶望したのではないだろうか。(敬称略)