読み終えるのが惜しくて惜しくて
★★★★★
ディー判事シリーズもこれが最後。それにふさわしい盛りだくさんの内容で「読み終えるのが惜しい」と思いつつ最後まで一気に読みきってしまいました。物語そのものとも関連しますが、一種の喪失感をもってこの駄文を書いています。
ミステリのシリーズ物は数あれど、このシリーズほどコクのある、味わい深い作品群は少ないと思います。「半七」や「マルティンベック」、「きままなプリマドンナ」といったさまざまな名作のおいしいところをまとめて堪能できます。
三省堂から始まりちくま、中公とさまよい続けてきたこのシリーズの翻訳事業が、ハヤカワという最後の落ち着きどころを得て完結できたことにも、感慨を禁じえません。毎年ミステリ本のランキングが何種類も発表される中で、ディー判事シリーズがランキング入りした記憶もなく、版元が彷徨したのは売れなかったためだと思いますが、それだけに、ハヤカワの頑張りに拍手したいと思います。同時に、日本の読書界に失望を禁じえません。
ともかく、三省堂から出た分が容易に手に入らない状況は早々に改善すべきです(小生はそろえているので別にいいのですが)。そのためには、ハヤカワにもうひと踏ん張りしてほしいと思います。
シリーズ完結を機に、この奇跡の名作シリーズがもっと広く読まれることを望みます。
最後に蛇足ですが、その後のディー判事について知りたい方には原百代「武則天」(講談社文庫)を勧めます。長いのですが、とにかく面白い歴史大河巨編です。もっとも、この本も現在は手に入りにくいのかも知れませんが。