戦前・戦中の少年少女小説集
★★★★☆
収録作品は以下の通り。
武道宵節句(昭和13年)
初午試合討ち(昭和13年)
花宵(昭和17年)
梟谷物語(昭和14年)
伝四郎兄妹(昭和14年)
だんまり伝九(昭和11年)
義経の女(むすめ)(昭和18年)
峠の手毬唄(昭和14年)
おもかげ(昭和17年)
春いくたび(昭和15年)
本書は、周五郎が戦前・戦中に少年少女雑誌に発表した短編を収録した短編集で、収録した作品が文庫に収録されるのは初めてとのことである。この10編は、山本周五郎全集(全30巻 新潮社)に未収録で、山本周五郎全集未収録作品集(全17巻 実業之日本社)に収録されている。周五郎初期のレア・アイテムということもできる。作品は、少年少女向きに平易に書かれ、当時の時代背景と出版者側の注文に沿った内容となっている。従って、戦後の深みのある内容を求めるべくもないが、周五郎の原点を知る上で興味深い。原稿料のためのやっつけ仕事のような作品もあるが、表題作「春いくたび」は、婦道記シリーズを思い起こす余韻を残す佳作で、10編の中では一番の出来であろう。「義経の女」も好ましい作品。