不親切な入門書
★★★★☆
レヴィナス理解に不可欠な論文を集成している点ではありがたいと思うが、解説や編集方法は「不親切」の一語につきる。同じ著者(と内田樹氏)による『超越・外傷・神曲』との関係にも触れるべきであろうし、その他の研究書についても触れるべきであろう。レヴィナスの生の文章にまず接するべきだという方針とは思うが、それにしてももう少し訳注がないと理解そのものがおぼつかないのではなかろうか。
思弁の至高・誠実者・徳の人(偏狭の意味ならず)
★★★★★
とかく誤解されがちなユダヤ一神教、右左翼の挟撃にあいながら、ひたすらユダヤ的徳「トーラー」を守り、キリスト教西洋主義に対峙する。フッサールの手法、ハイデガーの思想を受容しつつ、彼の思想は、民族の独善性からのがれ、世界性を帯びるに至る。…ドゥルーズ、デリダ現代思想にあたえた”ノマド”の考察の価値は計り知れない。…彼は所謂コスモポリタニズム、またはネグリ的グローバリズムに媚びることを潔しとしない。
我が邦に、一人のレヴィナスがいたならば、靖国問題などに、拘泥されることもないであろうに。…フランス礼賛者・大江健三郎はその任にあらず。
ありがたい一冊
★★★★★
レヴィナスの思想は難解だといわれている。しかも長い。しかしこの『レヴィナスコレクション』は、書評などを含んだ小論を集め編んだものである。バランスがいい。「ある」「時間と他なるもの」「逃走論」などは、レヴィナスの主著を理解する上でとりわけ重要な著作である。これを読むと読まないとでは、後の理解度が全く違ってくる。『全体性と無限』『存在の彼方』を読む前に、是非読んでおきたい一冊である。訳は合田正人である。氏の訳には唖然とさせられることが少なくないが、これに関しては問題ないと思う。また約40頁分の合田氏の解説も興味深いものがある。ありがたい一冊である。