正社員の若者が可哀相
★★★★★
長時間労働、過密労働、職場空気の重さ、正社員の責任感、悲しい現実、悩み、叫びを筆者は汲み上げて書物に仕上がっている。ここまでの感情を表現するには本書の表面に現れる事象の数倍、数十倍の事実を知ったのだろうと推測する。その意味で渾身の雇用環境のルポルタージュです。読んでいて怒りの感情がわいてきました。
正社員をそこまで追い込むのは、非正社員の労働環境の酷さをベースにしているのは言うまでもありませんが、現場を預かる管理職、現場を知らない経営者によるところが多いでしょう。これらは別の書物を読む事で呆れましょう。
本書の後半に紹介されている、「富山県の取り組み」、や良識のある経営者のご意見を見ることで、将来がない絶望ではなく、反省して努力すれば希望が作れるという考えを多くの人に読んでもらいたい。
時代の証言
★★★★★
「ルポ正社員になりたい」と両方を読みました。いずれも、この時代の証言として真のジャーナリズムを貫いていると思いました。ここ数年、ルポは多く出ていますが、格差の問題を初めて経済誌で取り上げ、掘り起こしてきた筆者の描いたこの時代はジャーナリストとして完璧なルポルタージュではないでしょうか。冷静な目と権力のあるものへの怒りが滲み伝わってきます。淡々と事実で攻めていく書き方こそが読者を納得させるのでしょう。この本を批判する人は全く反対の立場の人か、悪意をもっているとしか思えません。人材派遣、介護、消費者金融、アパレル、小売、メガバンク、証券・・・。多くの業界で頑張る若者の姿に共感を覚えないはずがありません。一生懸命に仕事をする、自分なりに努力する、実績を上げる。そんな若者が虐げられている現実こそ救わなければならないのではないでしょうか。そうした現実を刻々と描いている著書を読み、読んだ人がそれぞれどうすればいいのか考えたいとは思いませんか。学者やアナリストは、こうした現実を見聞きしてもっと有効な政策を提案して欲しいです。きっと、小林美希さんにジャーナリズム的なものを任せ、それを受けて研究者がしっかり政策提言するような連携を組むことができれば、世の中が早く良くなるのかもしれませんね。なりより、ルポに感動しました。きっと辛くても、この本を読めば頑張ってみようと思えるはずです。読後の爽快感に浸っています。次の作品を待っています。
一気に読みました
★★★★★
買って一気に読んでしまいました。ここにはたくさんのルポがあり、それぞれの人に共感しながら読みました。まえがきにある構造的な背景は勉強になりました。たくさんの労働者の想いを乗せた筆力に圧倒されました。筆者の方は、いろんな業界を見つめ、そして政策についても目を光らせます。ニートやフリーター問題が騒がれ、その対策になった政府のジョブカフェではリクルートが日給12万円もの費用を国に請求していたなんて、ひどい話です。これからも、どんどんこうした不正を暴いていって欲しいです。この本を読み終えて、登場人物の生き方から自分も頑張れば何かできるような気がしました。克明に時代を描くこれ以上のルポはないと思います。筆者の正義感やジャーナリスト精神に感服しました。
焦点が絞れていない
★★★☆☆
1.この本の長所
(1)まず、副題の「就職氷河期世代を追う」はクリアしていると思う。すなわち、主内容は、いわゆる「就職氷河期世代」(定義はこの本にて)を追っかけたルポルタージュである。
(2)公平に書こうとする姿勢は感じる(たとえば、p87l5〜l8)。
2.この本の短所(一言でいえば、焦点が絞れていない。それを個別に書くと、たとえば、)
(1)「「正社員」の若者」たち」からすれば、問題は、(ア)正社員と言っても、実態は社会保険がなかったり、だとか、(イ)正社員の労働環境の苛酷さがほとんどになるはずだが、多岐にわたりすぎており、拡散している。
(2)若者の雇用環境が厳しくなった原因のひとつには、正社員の既得権の問題もあるはずだが(解雇が難しいので、若年層にしわ寄せが来る)、正社員=善のトーンに貫かれているので、その批判が不徹底だと思う。
(3)これも抽象論で申し訳ないが、正社員=善、非正社員ならびに失業者=悪とも読める部分がある(たとえば、p170において著者の批判がない)。雇用のしわ寄せは、正社員のみならず、非正社員や失業者にも行くのだから、非正社員ならびに失業者=悪であってはいけないだろう。
3.結論―長所星4つ、短所星2つ、全体として星3つ。
全体として勉強不足
★★☆☆☆
前著で非正社員に甘んじている若者たちにスポットをあて、今度は正社員になってもやはりこきつかわれる若者を描いている。ルポ自体は、よく描けているし、自分の子供が同じ目に合うリスク(かなり高いのではと心配している)を考えると恐ろしくなるほどだ。
ただ、ルポにでてくる正社員の業界が、人材派遣や介護、看護、消費者金融などいかにも大変そうな業界に偏っている。もし、正社員になっても若い世代が大変な目にあっていることを言いたいのなら、商社や自動車メーカー、大銀行の幹部社員など、「勝ち組」と目されるような正社員もルポすべきではないか。彼らも相当にしんどい目に合っている。違いは給与が高いことくらいだろうか。また、富山県の話はいったい何なのか。富山県の取り組みによって若者のきつい労働が改善されるとはとうてい思えない。それにその富山県でも半数は県外に就職しているわけだし。介護や看護の問題を産業政策ととらえているのもおかしな話。どう考えても再分配を中心とする社会保障政策の問題だと思うのだが。最後に一つだけ。「はじめに」で、賃金構造基本統計調査を引用し、大企業の大卒社員では30代に残業が集中していると書いて、若者にしわ寄せがいっていることの証拠にしているが、40代になったら、管理職になるので、残業がつかなくなるだけ。その管理職は残業がつかないだけで、5時に帰っているわけではない。会社によっては、若者以上に働いている。また、中卒や高卒を見れば、取り立てて30代に残業が集中してないこともわかるはず。簡単な統計も読めないとのかと思ってしまう。意図的ならずるいし、知らずに書いているなら勉強不足。どちらにしても、この統計の箇所でぼくのこの本に対する信頼度は下がってしまった。