イチオシは『淫売婦』
★★★★☆
収録作品の中で特に『淫売婦』が良いです。初めて読む時はその凄惨さにジャック・ケッチャムの猟奇作品など連想しましたが、読み終えた時にはまったく別のジャンルに変わっていました。吐き気を催すような描写の連続にもかかわらず、むしろ読後感は爽やか… 日本にもこんなとんでもない作家がいたんですね。
青空文庫にも収録されていますが、それでも本棚に必携の一冊かと。
この本あっての蟹工船
★★★★★
1920年代にタイムスリップ。セメント破砕機に巻き込まれた恋人、その血の色に染まったセメントは恋人入りの赤いセメント、そのセメントと恋人のその後の関係は・・・。スプラッターから恋愛モノへ?答えは書かない著者の著者らしい一冊。答えは読者にゆだねられる。
この本あっての蟹工船
★★★★★
1920年代にタイムスリップ。セメント破砕機に巻き込まれた恋人、その血の色に染まったセメントは恋人入りの赤いセメント、そのセメントと恋人のその後の関係は・・・。スプラッターから恋愛モノへ?答えは書かない著者の著者らしい一冊。答えは読者にゆだねられる。
『蟹工船』に感銘を受けた読者は、ぜひ一読を!
★★★★☆
おそらく、つい先日、小林多喜二の『蟹工船』がふたたび脚光を浴びたおかげで、わが国のいわゆるプロレタリア文学の草分けとでもいえそうな葉山嘉樹の作品まで文庫本で復刊されることになったんだろう。でも、せっかくの好機であることだし、『蟹工船』に感銘を受けた読者には、ぜひ一読をおすすめしておきたい。
表題作のほかに「淫売婦」「労働者の居ない船」「牢獄の半日」「浚渫船」「死屍を食う男」「濁流」「氷雨」という全部で8篇の短篇小説を収録。大正末から昭和の初期にかけて発表された作品だけど、改行が多くて大味かつ平明な文章で書かれていて、たちまち読み終えてしまう。どれも主題が強烈で明快である。
作中でリアルに描かれた当時の日本の貧困と、わたしたちの生きている現代社会の貧困とを比較して、いったいどこか共通していて、どこが異なっているかを考察することは、とても意義深いことではないかしら。
なんといっても葉山嘉樹が実際に放浪しながらさまざまな過酷な労働現場や獄中で身をもって体験した現実に基づいて執筆しているという迫力がすごい。巻末の解説と年譜がかなり充実していて参考になる。ある意味、本篇よりもそちらのほうが読みごたえがあったかもしれないくらいだ。
私は、作品の内容よりもむしろ作者自身の波瀾万丈の生涯のほうに強い興味をおぼえてしまった。うーん、女性関係なんか、もう相当にムチャクチャな人生だったみたいです。
昔、プロレタリア文学というジャンルがあった
★★★★★
徹底して悲惨な1920年代30年代の底辺労働者の生活の記録・・しかしプロレタリア文学と呼ばれた小説群のうちのいくつかが今なお文学として読むに値するとしたら、それは底辺の生活に現れる人間性を徹底的に観察してやろうという作家の執念にも似た気迫の故であろう。工場労働者がついには自分が作っているセメントと一体化してしまうという「セメント・・・」はそんな一つといえるだろうが、ここでは悲惨が極に達してある種のグロテスクユーモアになっている。恋人を失った娘が「あの人は立派なセメントになったかしら」と心配するとは!人間性の喪失があのぐにゃりとしたセメントの質感とともに不気味に具象化されている。これはモダン・ホラーにも通じる感覚だ。怖いですよ。