ゔ〜
★☆☆☆☆
歴史に関する記述は作者がその時を生きる現代史で無い限り、その出典を過去の文献に頼らざるえないという宿命があるのは判るが … 参照が多過ぎる。
参照している文書も、歴史的資料からの参照というよりは、本屋さんで売っている本からの参照。
参照以外は、固有名詞・年代の列挙、参照以外の文書も、参照とは書いていないが実は参照、あとがきも、参照なら、恩師への追悼文も参照。参照、参照、参照。
とにかく『図書館のお勧め本紹介』又は、『私的読書感想文』『私の読書自慢』みたいな本だと感じるのは私だけでしょうか。
ヨーロッパ統一帝国の理想が崩れ、国家が並立する時代への転換
★★★☆☆
1618年から断続的に30年続いた戦争は、後にひとくくりにされて30年戦争と呼ばれる。プラハでの宗教対立から端を発した抗争は、やがて神聖ローマ帝国、フランス、スペイン等が自らの宗教の正統性をヨーロッパ中に広げるための帝国を夢見る大戦争へと発展していく。果てはフランク王国と祖が同じとして、ゴート族の出身地スウェーデンまでもが東欧に遠征してくる。
30年の戦争で、社会は大きく変わる。王が戦時に税金を徴収して傭兵を雇う形式から、平時から税金を納めさせ常備兵を置く形式へと変わった。王の宗教を絶対視し、それを国内に強制することができなくなった。ヨーロッパを統一する帝国や宗教は夢と消えた。近代国家の成立である。
江村氏著の「ハプスブルク家」または同じ著者による「神聖ローマ帝国」を先に読んでおくとよいでしょう。
★★★★☆
30年戦争に関する日本語による一般歴史ファン向けの本を私は寡聞にして他に知らないから、本書の価値は依然として高いと思う。作者は近代の序章としての戦争であったという観点に立つ。意味するところは、宗教対立とハプスブルク家などの自分が帝国になって単一の秩序・正義を打ち立てんとする普遍主義とが結びついた正戦がいつ果てるともしれない消耗戦しかもたらさないという本戦争の結末から、多数の秩序・正義の並存を認めるシステムを認め、これ以降欧州では戦争は限定戦に合理化され、「宗教のドグマから逃れ」、領主が集合離散を繰り返す非常備軍中心の戦争から、常備軍を維持する徴税制度を備えた国家間の戦争に移行したということ。佐藤賢一氏著「英仏百年戦争」を読んだ者としては、英仏に遅れて他の欧州でやっと国民意識が芽生える契機が訪れたのだなという感想を持った。(もっとも、独・伊を統一する国民国家の成立はもっと後。本戦争はそのドイツからオーストリアが外れる遠因になった。)それにしても、日本の応仁の乱の如く何と錯綜した人物・領邦間の関係であることか。本書をよく理解するためには同じ新書の江村洋氏著「ハプスブルク家」と本書と同じ著者の「神聖ローマ帝国」を事前に読み、同帝国のかたちとハプスブルク家の関わり、長い両者の歴史での三十年戦争の位置づけ及び前後を含めた概略に親しんでおくことを薦める。いきなり本書を読んでも、普遍主義・帝国理念等で始まる第1章でつまずく人が多いのでは?第2章で実際の戦争の展開の記述に入ってからは、傭兵隊長ヴァレンシュタインやスウェーデン王グスタフ・アドルフ等歴史を飾る一級の人物たちの活躍やエピソードに魅了される。しかし、これだけ複雑な経過を辿り登場人物の多い戦争なのだから、もっと地図が欲しいし、系図・年表・索引を付けて欲しかった。最後に、いつもながら戦争の惨禍には粛然とする。
帝国理念の蹉跌と近代国家像の登場
★★★★★
帝国やフランスをはじめとする大国が挙って参戦し、中欧全域を阿鼻叫喚と荒廃の巷と化した三十年戦争。ヴァレンシュタインやグスタフ・アドルフ、そしてリシュリューなど、当時の名に負う梟雄たちが死闘と権謀術数の限りを尽くした舞台こそ、この17世紀の欧州大戦に他なりません。
もともと宗教的熱情の迸りに端を発した紛争ですが、関係各国間の複雑な利害の絡まり合いの中、いつしか国際関係の現実に根差した「近代的」戦争へと変容を遂げていき、ウェストファリアで講和がなされた頃には、欧州におけるパワー・ゲームのルールは全く新しいものに変化し、また、各国の統治システムも面目を一新することとなりました。
さて、本書は、主としてハプスブルグ家側からこの戦争を概観し、その背景と経過を紹介するとともに、戦争の過程における国際関係と国家システムの変容を分かり易く説き明かそうとするものです。
本書の中で筆者は、この戦争の基本的な性格に関して、カール5世以来の「帝国的」普遍主義と地域的個別主義との相克として捉え、各国・諸権力側の現実的な利害打算の中、中世的理念が最終的蹉跌を来たす過程を描き出そうとしています。
三十年戦争は、その後の国際関係の根本的方向性を規定する契機となった極めて重要な事象ですが、我が国では一般向け概説書の類は少ないようです。そうした中、本書は、平易な言葉を用いつつもポイントを押さえた記述振りとなっており、たいへん貴重な一冊だと思います。
なお、著者はもともと文学畑出身の方であり、その語り口には独特の味わいを感じます。
宗教対立から国家対立の時代へ
★★★★★
三十年戦争は十六世紀のルターの宗教改革で西欧がカトリックとプロテスタントの両陣営に分裂した状態を受けて、十七世紀にハプスブルク家が再びカトリックの盟主としてヨーロッパに覇を唱えることから発した戦争である。初期の宗教地図を巡る戦いから、次第に国家的利害の角逐に性格を変えていくのがこの戦争の特徴である。例えば最後に参戦したフランスはカトリックであるが、敵国内のプロテスタントに援助を与えたり、異教徒オスマン帝国と結んだり、宗教にこだわらない外交を展開している。ウェストファリア体制では「主権国家」という概念と近代の国際法秩序が生まれた。これはやがて欧州のみならず、植民地化していくアジア、アフリカなどの他の地域にも適応され、現代に到るものである。ヴァレンシュタイン、グスタフ・アドルフなどの英雄が活躍する時期であるが、ヨーロッパがこの戦争を契機として近代の道を歩んでいくありさまも見逃せないものがある。