世界帝国の成立
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草原で勃興したチンギスハーンのモンゴル帝国
中原は金と南宋との戦いが続いていたが、南宋も派閥争いが激しくなり
その政治の混乱が国力を急速に衰退させていった。
一方で北方から忍び寄ってくるモンゴルによって金は追いつめられていく
西域で勢力を伸ばすモンゴルは西夏を攻撃するが、国力が衰退した宗主国金は援軍すら送る事が出来なかった
やがて金はモンゴルによって滅ぼされた。
その結果、国境が接する事になった南宋はモンゴルとの戦いとなる。
そしてモンゴルは南宋まで滅ぼし、高麗を侵略し
ついには日本にまで侵攻を図るまでになった。
未曾有の国難に見舞われた日本は、激しい戦いの末、神風という自然現象にも助けられたが蒙古を退けた。
元寇についての記述はそんなに詳しくはないですが、本書には日本の文献だけではなく、元史や高麗史などからも陳氏は調べて本書に書いています。
ちなみに本書では、南宋の旧遺臣たちを奴隷にしたと書かれているが、これには異論がある
私が元寇に関わる別の資料を調べた限りでは、そのようなことはなく、南宋とは交流があったこともあり、南宋の遺臣たちは後に帰国を許している。
武士団が許さなかったのは、モンゴル人や女真族や高麗人だった。
彼ら文字通り皆殺しにされた。
注目されるのは、侵略に主体的に関わったモンゴル人や、交流がなかった金の遺臣はともかく。南宋の遺臣と同じく交流があった高麗人すら皆殺しにしたことでしょう
元に征服された高麗は、日本侵攻の際に積極的にかかわり、手引きしたと言われている。そのことを当時の鎌倉武士団も知っていたのでしょう。
そう考えれば憎悪の激しさもわかります。
他には本書では、モンゴルではマルコポーロのような西洋人、色目人と当時は言われていたそうですが
彼らが優遇され、元で色々な文化の足跡を残した事が記されています。元の衰退したときにはモンゴル人と同様に報復の対象とも書かれています
また、陳氏は本書で「元」は非漢人が中原を支配した、特異な歴史であったと記していますが。
しかし陳氏の方がずっと詳しいと思うが。満州族によって成立した「清」それに南宋を追いやった「金」も異民族の女真族の王朝であった
実は中国の歴史では漢族の支配よりも、異民族の征服王朝が続いた事の方が長い。
ただ、「元」がこれまでの異民族支配で特異だったのは、他の異民族による征服王朝は、被征服民族である漢人の側が文化的に上位であったことから、その文化を取り入れ、やがて漢族と同化していった。
しかしモンゴル族の「元」だけは、最後まで遊牧民族の文化を守り、漢族と同化することなかった、しかも漢族をもっとも卑しい身分に位置づけ抑圧を続けた。
元の時代は中国の歴史の中で実に屈辱的な事であったことを、陳氏はこの「中国の歴史」シリーズで何度か述べていますが、「元」の時代が唯一、非漢族に支配された特異な期間であったとの陳氏の主張もここからでしょう。
このようなモンゴルの勃興から、元の成立と衰退までの歴史物語を、本書「中国の歴史」五巻で描かれています。
日本が関わる元寇の物語も、私は他の資料と照らし合わせながら読み解いて楽しむ事ができました。
本書は歴史を物語として楽しめましたが、また現在の政治や軍事史と当てはめながら色々と考える事もできました。
歴史は物語としてだけではなく、現在の政治や軍事などを少し勉強して読み解いていけば、視野も広がり、新しい発見もあり、より楽しめるものと思います
筆致はいよいよ円熟味を増し
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著者の同シリーズの5冊目にあたる。時代は、宋の滅亡から元の中国席巻、そして明の興隆までを描く。筆致はいよいよ円熟味を増し、このシリーズの一つのピークを迎えている。特に、元による「非」漢民族王朝の中国史上における異質性、特異性についての記述は、近代の清の理解への大きな架け橋になるはず。また、元寇に関する中国史側からの記述は、中高生の日本史の知識しかない方には、ぜひ一読をお薦めしたい。読み物として楽しみながら理解が深まります。
個人的に心を打たれたのは、元の支配に屈しなかった文天祥の「正気の歌」に関するところ。フビライ=ハンの帰順のすすめに決して応じることなく果てた”漢(おとこ)”です。その屈強な精神は、日本の幕末の吉田松陰らにも強い影響を与えたのです。