経営者には転ばぬ先の杖
★★★★☆
「どこまで堕ちた企業を救えるのか」というタイトルを読み変えると、企業は「どこまでは堕ちてはいけないか」という内容かと思い読むこととした。 企業再生を戦略(ハード)と風土(ソフト)の両輪で達成する物語が展開する。 オーナー企業の2代目にありそうな人物像ではあるが、会社の現状の描写は誇張気味であり、此処まで「堕ちた」ら破綻するであろうと誰でも判り、現実味に乏しいというのが読み始めての印象であった。 このように戦略も風土も悪ければ、逆に再生に寄与する要素も多いので、再生の道は描きやすいのではないかと。
今の日本の中堅中小企業は、この物語に描かれているまでに明らかな戦略や風土の問題が無くとも、破綻がひしひしと近づいている企業が多いのではないだろうか。そうしたゆで蛙のような企業のターンアラウンド(再生)が最も難しく、且つ日本の産業活力を考えた場合、「堕ちない先の再生」が、最も求められる現場でもあろう。
前半はその様な思いで読み進んだが、一気に結末まで読むと、新たな活力が沸々と湧き出るような感情を持った。 即ち、改革のポイントの一つ一つを自社の現実と比較し、正すべきところを確認していくような心の中の作業をしながら読み、取組むべき事を再確認し、エネルギーを貰ったような感覚だ。
物語の再生の過程で実践される事は、基本中の基本の事柄に明確に絞られている。基本を守ることが「堕ちない」為の経営であり、自主点検へと導いてくれる。
再生はテクニックではなく「嘘のない経営」への原点回帰
★★★★★
本書に描かれている破綻企業の内情を見ていると、要するに、健全な会社というのは「嘘のない経営」「虚しくない仕事」をしている会社ではないかと思う。
銀行出身で会計の立場から経営不振の会社や事業を支援していた知人が、「現場から上がってくる数字を見ていると、おかしな仕事はすぐわかる」と言っていた。今のように情報システムが整備されていない時代には、毎月上がってくる現場からの数字を原データにしてコストを分析し、生産性だけではなく、ものの動きや処理のしかた、製造技術やシステムのレベル、果ては作業をしている人の状態までみて経営指導をしていたという。「正しい数字がほしかったら雇用形態に関係なく、ちゃんと働く人の面倒をみないとだめだ」と。
●数字をどう見るか
●数字をどう見えるようにするか
●数字を何でつくるのか
結果としての数字が現れてくるまでの過程にこそ経営がある―。会社を潰すまいと神経を総動員して数字に取り組んでいた彼が見ていた「数字の意味」はこれ(組織の風土と体質)だったのかと気づいた。
本気の人たちを呼び戻さなければ会社は帰ってこない。私自身、かつて身を置いた会社が失われた真の理由がわかったような気がする。
前半部分がもう少し省略できたはず
★★★☆☆
物語風に落ちぶれた企業を再生していく様子が描かれています。また、再生される側や再生する側の両面
から、企業再生について学べると思います。
ただ、これまでの再生に風土改革という新たな手法を用いて再生を行なったとの記述がありましたので、
期待しましたが、その点についてはあまりページが割かれていなかったと感じます。
それであれば前半部分の企業の落ちぶれようを描いた部分を減らして、再生と風土改革の両輪で進めて
いった様子を丁寧に描いてくれればよかったかと思います。
主役の普通の社員たちに共感
★★★★☆
企業再生というと、再生屋が乗り込んできて・・・という物々しいイメージがありますが(この本ではそれを「進駐軍が来る」と表現しています)、この本で描かれている再生では、再生の主役は、コンサルではなく、再生機構や銀行でもなく、「普通の誠実な社員」が主役です。その普通の社員たちの成長曲線と比例して、企業も立ち直っていくプロセスが描かれていて、そこに好感が持てました。
なぜなら、「こんなスーパーマンいねえよ!」という人物が出てくる本は、読み物としては面白いかもしれませんが、実務の役には立たないからです。
この本のストーリーで主役として登場する人物たちは、どちらかというと地味で、頼りなげなところもあって、でも「働く喜びを感じたい!」「会社をなんとかしたい!」と心の底に誠実な思いを秘める、まったく普通の社員たち。そこがよかったです。共感しました。
それと、この本では「リーダーなら会社の数字くらい読めなきゃダメ」というメッセージが強調されています。本当の意味で数字が読めるならば、会社や職場の裏の裏まで見通せるそうです。数字が苦手な文系リーダーの私も、そろそろ本気で数字を読める管理職にならないと・・・、と思いました。
幅広く分かる再生と経営の入門的良書
★★★★★
『なぜ会社は変われないのか』など硬派のベストセラーが多い柴田昌治氏の最新刊ということで読みました。
破綻前の企業に見られる兆候と、破綻企業が再生していく様子を、『なぜ会社は〜』と同じくストーリで描き、その間に解説が入っています。
ベストセラーとなった『なぜ会社は〜』は、企業風土に着目し、風土改革の手法を解説していましたが、本書では、風土改革に加え、戦略論(負債の圧縮、事業の選択と集中による本業回帰等)との両輪による企業再生の方法が解かれています。
これは、本書が舞台とする企業が『なぜ会社は〜』の舞台よりさらに腐りきった企業であり、また大型の企業破綻が相次ぐ現在の社会状況を反映した結果でもあるのでしょう。
共著者の大川氏は銀行で企業再生を専門にしてきたターンアラウンドの専門家とのこと。この共著者の経験してきた再生案件を下敷きにしたらしい本書のストーリーが、会社のドロドロを活写していてリアルで楽しめました。
この本から何が学べるか?
墜ちた企業を再生するということは、経営の基本に立ち返るということ。現場単位では、仕事の基本に立ち返るということでしょう。
本書では、柴田氏の風土改革手法に加えて、「ありのままの数字を報告する」といった現場の基本から、会社の数字の話、債務と財務の話、財務分析上の概念であるEBITDAの解説など、経営の教科書的な側面まで丁寧に盛り込まれています。財務関係の話は共著者の得意とするところなのでしょう。この数字的な詰めの話が、これまでの柴田氏の本にはなかった厚みを与えています。
ということで、本書を読むと、企業再生の手法から、経営の基本まで、幅広くなんとなくわかった気になれます(笑)。ストーリーなのでサクサク読めますし、経営及び再生の入門書として手堅い良書と判断しました。