恋愛とは教育である
★★★☆☆
書いてはいないがおそらく、著者は「純愛」なる言葉も毛嫌いするであろう。本書は、
「真っ正直」とはまるで正反対に権謀術策で対人関係を築けという前著『悪の対話術』
の続編的な内容。今回のテーマはずばり、「恋愛」だ。
だが本書でいうところの「悪」というのはどちらかというと、「上質」や「濃厚」に近いのか
もしれない。まず一章で、電波で約束をとりつけ会えば即まぐあうだけという現代の若
者たちのお寒い恋愛事情に警鐘を鳴らす著者は、ドルバックの言葉「臓物を背後に抱
えた二つの粘膜の摩擦にいたる過程」を引用し、まさにその過程にこそ恋愛の奥ゆか
しさと面白さがある、と説く。
さらに二章では、イギリスによる香港の統治政策にみる、恋愛の支配関係を論じる。著
者は完全に両者が平等な恋愛など存在しないと考える。あるのは支配と被支配の関係
であり、恋愛とはいわば教育なのである。むむ、さすがにこの言葉は10代には言えまい。
しかし前著は読後、その名の通り「悪の対話術」らしきものを学び得た感覚にあった評
者ではあるが、この「恋愛編」はどちらかというと恋愛エッセイに近い向きがあると感じ
た。そしてなんといっても、レベルが高いすぎる。というのも、そもそもパートナーのでき
たことのない人が誰か恋人を見つけるために本書の内容から学ぶべきなのは結局、
「時間を共有すること」という、気持ちの悪い話、うちのオカンでも思いつくような戦術で
あって、戦術とすればまことに心許ない。
「利己的」で「独りよがり」で…
★★★☆☆
著者は読者に、自分の本質が利己的であること、独りよがりであることを認めるべきと言っています。
けれど、だからと言って「利己的」で「独りよがり」であることに胡坐をかいていいわけではない、ということに後になって気づきました。
開き直っていた数年間(?)を思うと、恥ずかしいというかもったいないことをしたというか…。
ところで「イギリス植民地支配に学ぶ贈与」のくだりは面白いと思いました。香港はイギリスの植民地だったけれど、植民地って人がイメージするほど悪くない。香港にとっては中国領でいるより幸せだったのではないか―男女関係にも同じことが言えますね(笑)「あげまん」「さげまん」とは、ほとんどこの発想でしょう?
私も「イギリス」と付き合いたいと思ってしまいました(笑)これってエゴイスティックな発想…(汗)!?
けっこうすごいことが書いてある
★★★☆☆
恋愛術がどうこう以前にこの著者が慶應高校時代にどのような学生生活を送っていたかに関するエピソードが、かなり過激というか、よくぞここまで本当のことを書いたものだと感心しました。今の慶應生もそうなのかと思うと愕然とするというか。人の記号に対する感度や植民地支配あるいは文部科学省の教育政策など、なるほどと思わせてくれるくだりはたくさんありました。
恋愛の本質をズバッと
★★★★☆
恋愛ほど無垢な善意や無意識な純粋さが美しいと勘違いされているものはないでしょう。
本来は福田氏が言うように支配・被支配の構造であり、どちらの恋愛物語に相手を取り込むかの「闘い」であるにも関わらず。
そこで「悪の」恋愛術が効いてきます。
意識的に戦略を立て、駆け引きを楽しむ。
恋愛が結局はエゴであり自己チューであることをしっかりと認識した上で、甘い夢を見るのではなく苦い現実の恋愛を精一杯楽しむ。
それこそが大人の恋愛というものでしょう。
素敵な大人になりたい方、見た目だけちょい悪オヤジを目指すのではなく内面からの「悪」を身につけたい方、読んでみられてはいかがでしょうか。
恋愛は、厄介で愉しい贅沢品
★★★★☆
エピローグのサブタイトルの「恋愛は、厄介で愉しい贅沢品」、特に「厄介で」というのが、この本のポイントなのだと思います。「厄介」なことを面倒くさがる人には、恋愛は楽しめないということでしょうか。
恋愛においてもイギリス植民地の見事さ(自然の良港をもつという素材のよさに着目して、中国から奪い取った寒村に大投資をして、世界的な貿易都市「香港」を作りあげた)にならえという指摘には、なるほどと思ってしまいました。