対テロリズムの最前線にいる担当責任者による、ピカイチの実務参考書
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テロ組織アルカーイダによる「ジハード」についての分析とその対策実践書である。
タイトルも装丁も地味な本である。しかも著者は現役の警察庁公安課長。しかし、決して侮ってはいけない。類書のなかではピカイチといっていい内容だ。
なぜなら、対テロリズムの最前線にいる担当責任者の認識を文章のかたちで表現したものだからだ。そう、これは実務参考書なのだ。
グローバルに展開するアルカーイダの組織を分析するにあたって、最新の「ネットワーク組織論」を十分に咀嚼(そしゃく)した上で、従来のテロ組織とはまったく異なる、21世紀型テロリズムとの対決の方法論を思索した内容が一書として結実した。アルカーイダには中心も、明確な指揮命令系統も存在しないのだ。
著者はアラビア語は解さないが、英語その他による参考文献を広く渉猟(しょうりょう)して目を通し、また各国の対テロ責任者との対話と議論をつうじて、日本では第一級の認識をもつにいたっている。
このため、イスラーム世界に過剰に肩入れする傾向のある、日本のイスラーム研究者の論調に引きずられることなく、冷静な立場に徹することができている。「敵を知り、己を知らば・・」を地でいくものであろう。
本書は、イスラーム過激派によるテロ活動との思想戦の実態についての現況報告であるとともに、インテリジェンスとは何かについての実践書である。遠い国の話ではなく、まさにいまこの国のなかで実際に発生している話なのである。
対テロ実務書としてでなく、「ネットワーク組織論」としても読み応えのある内容となっていることも付記しておこう。
もっと広く知られていい好著である。
こんなに明解な一冊が何故知られていない??
★★★★★
テロリストという言葉からは、ともすれば
「髭の生えた目つきの危ない非西洋人」
というステロタイプのイメージが喚起される。
しかし本書はそんなイメージからは遠く離れて
これ以上無いほど論理的に、明解に
「グローバルに拡大したジハード」を分析した一冊。
彼らの思想背景から心理面にまで言及しながら
決して感情的な決め付けに陥ることなく
最後の章まで徹底的に情報を分類し、整理し、
論理立てる強固な思考は感嘆に値する。
根底思想からネットワーク・実働対策までこれ1冊でよくわかる。
★★★★☆
本書は3部構成になっている。第1部ではジハード主義思想について俯瞰している。第2部ではジハードを行なう組織のネットワークについての特徴分析を取り上げている。第3部では実際にテロに対抗するための方策について論じている。著者はイスラム研究専門家ではないが、膨大な第一級の資料をきちんと咀嚼し深く読み解いたうえで、さらに日本に暮らす一般の人々にそれを凝縮し体系的かつわかりやすく伝えている(膨大な資料を持ちながら知識の集積というレベルにとどまる研究者も多いなか、著者はそれより上の「手筋を読む」レベルまで行っているように見受けられる)。また、「対テロ」といえばアメリカ目線で書かれがちだが、本書はそれとは少し立場を異にしている。戦史や戦術に興味のある日本の読者が、そうした「日本的目線」で本書を読めば、テロという現象面の問題にとどまらない、もう少し大きくて根本的な問題構造にも日本独自の視点をもって迫ることができそうな予感がする。
嬉しい驚き
★★★★★
週刊新潮のコラムで福田和也氏が絶賛していたので、早速読んでみた。不思議な本である。松本氏の肩書き(警察庁公安課長、前国際テロ対策課長)から期待されるような、職務上の秘密の暴露は一切ない。そのかわり、内外の文献を渉猟し、膨大な情報を分析・整理して、翻訳の借り物でない自分の言葉で、イスラム過激派のテロの実相を描き出している。次から次へ畳み掛けるような文体で読みやすく、かつ論理は精緻である。研究者にとって必読のロングセラーになるだろう。なにより、このような知的レベルの人物が日本のインテリジェンスの中枢を担っているのを知ることは、嬉しい驚きである。