食べものの道。
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最初の著書「日本の朝ごはん」からこの新著まで、向笠千恵子さんによって綴られたおいしいもの・それをつくりだすひとに魅了されてきた。
登場するおいしいものは、今ではインターネットで注文できるものもあり、たまに取り寄せたりしている。
おいしいのはもちろん、つくりての心意気やおもいをいただいているような気になり、元気をもらっている感じがするからだ。
本書の帯には“「俯瞰食文化学」を初めて実践した”とあり、突然ムズカシイ本を書かれたのかしら、なんだかすごいことになってしまったなあなんて思って手にとったが、大きな誤解。これまでのピンポイントになりがちな取材対象を、「食の街道」を俯瞰することで、食の流れを空間的にも時間的にもトータルに把握できるのではという試みをされたのだった。
食べ物の歴史や伝播の道、製法の違い、街道の始点と終点のお店などの紹介を読むうちに、楽しそうに街道を辿っている向笠さんの姿が浮かぶ。
読後に実感したのは、当たり前だけれど、何気なく日常にある食べ物だって、人から人へ、時間と空間を経て、いま自分のところに在るっていうこと。
これからは、ここに至るまでのすべてのひととモノと時間に敬意と感謝を込めて、心から「いただきます」と「ごちそうさま」を言いたい。
新しい俯瞰食文化学は、わかりやすくて、奥が深い。
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「食の街道」を通じて食品の本質をつかまえ、人間を掘り下げています。文章の気迫も評価大です。食べものにこそ人生があらわれるし、欲望の本音が出てくることがよくわかりました。それなのに、どこか視線がやさしい。これは、ひと味違う食の本です!
まずは、美味しくたべてから。
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著者は、郷土料理や地域特産の食材の通です。日本全国を訪ね歩き、丹念に現地調査し、記事にもしています。しかし、特定地域の食を知っていることは、日本地図の上にランダムに点を付けるだけ。それでは満足できなくなった著者が、それらを繋ぐ線、さらにその線を包む面を考え、郷土の食を、流れの中で総体的に把握したい、そう考えて書いた本です。流れの把握に利用したのは、昔から、特定の食材や加工食品が専らそこを通って輸送され、また同時に文化もその道沿いに伝播していった道。食の街道といわれる道です。それを辿り、地元の郷土史家の話に耳を傾け、出発地と目的地では、その食材や加工品を扱う現地の老舗やお店を訪ね、今の食材調達の状況や伝統的な加工法を聞き、試食もしています。
本書には、12の食の街道が取りあげられています。運ばれた品物は、さば、ぶり、塩、あわび、昆布、醤油、鮎ずし、お茶ツボ、砂糖、豆腐、トウガラシ、さつまいも。主要消費地に運ばれる道程で、運ぶ食品が練れて美味しさを増す。その丁度いい時期に品物は目的地に着くように運ばれたそうです。先人の食に対する知恵のすごさを今更ながら感じます。また著者の事実に即する調べでは、食の伝播は単純な一方向の直線ではなく、往復もある複線の経路だった。他の文化の流れと同じ様相で、大いに納得できました。特に、伝承されたと思われたものが、実は新しく考案されたものであり、ところが、それが元型の復元とみられるものであることなど、興味深かく読みました。
しかし本書の魅力は、そんな分析的な食の報告書にはありません。なぜかお腹がすぐ空く著者が、探し当てた伝統食を現地ですぐさま満面笑みで試食する場面が一番楽しい。とりわけ、サツマイモを食する時が一番生き生きしています。しかし著者一人がいいお思いをしていると不快にならず、つい美味しそうでいいねと微笑んでしまいます。人徳ですね。