青春ドラマ
★☆☆☆☆
コーチングが実際にどのように進められるのかについて理解するには単純明快に書かれており読みやすい。ただ紹介されている実話に基づくエピソードの主人公は一昔前のスポーツ青春ドラマの森田健作みたいな感じ。内容自体は会社の世代交代競争に勝ち抜いていく体育会系聖人君主的2代目若手社長の成功ストーリー。そう言う意味では著者の理想とするリーダー像という価値観の押し売りが入っている。コーチというのは指導者であるから当然自らの学習・経験に基づく価値観を被指導者に伝えるのは当然と言えば当然。スポーツ・コーチと同じでビジネス・コーチも各人の性格に合ったコーチを選ぶことが重要と考えられるのでコーチングの理解には単細胞的な内容の本書以外にも数多く出版されている様々なコーチング書籍に広く浅く目を通すのがいいと考える。
本書の中でトップダウン経営と社員の自主性を重視する経営を相容れないものとして説明しているが全く見当違いと思える(177〜178ページ)。会社全体の方向性を決めるのは最高経営責任者の責任と決断でトップダウン的にならざるを得ない。しかし、一旦方向(目標)が決まれば経営者は社員が自主的に仕事を進めることを期待する。トヨタ、サムソン、アップルなど世の中の成功している会社には必ずと言っていいほど強いリーダーがいて、会社全体の方向性はトップダウンで決めている。政治の世界も同じ。現在、日本に一番求められるのは国民をぐいぐいと引っ張っていってくれる強いリーダーだと思う。公約を守れず、総理大臣が一年に一回変わるシステムが本当にいいのか?中国ではこのことを「十年十相」(10年に10人の総理大臣)と言って日本の政治状況をあざ笑っている。社員の自主性を大切にすることはもちろん大切だが、日本の現在の問題点は本当の意味でトップダウン経営が出来る経営者が少なくなったことでは?
パナソニック・グループの創業者である松下幸之助がインタビューで話していたのを覚えている。経営者の仕事はいつも不安な気持ちでいることに耐え続けることだと。仕事は完全に社員に任せて、後はうまくやってくれるかどうかいつも心配しているのが経営者だと。つまりトップダウン的経営手法と社員の自主性を重視する経営手法は補完関係にあるものなのである。自分で事業を起こして、会社経営をした経験のないビジネス・コーチに安易に飛びつくよりは松下幸之助など歴代の傑出した経営者自身が書いた書籍とか彼らの語録集などにまず目を通した方がビジネス現場におけるリーダーとしてどうあるべきかがよく勉強できるのではないかと考える。お勧めはPHP研究所刊、松下幸之助述、松下政経塾編『リーダーになる人に知っておいてほしいこと』。成功した本当の経営者の言葉なので重みが全然違う。この本を読めばコーチング・スキルだけではリーダーにはなり得ないことがよく理解できると思う。
良書です。実話に基づくセッションを通じて、リーダーシップの本質を学べます。
★★★★★
本書は、実際のコーチングセッションの内容を、セッション時の記録を元に書き起こした内容です。
そのため、経営に関する数字、起こった出来事、コーチとクライアントのやり取りまで、全て事実に基づいています。
それだけでも、十分な価値がある内容ですが、さらに「コーチの視点」というコラムがテーマ毎に付属しており、
鈴木氏ご自身の見解を学べます。
本書に登場するクライアントは、本書出版時点(2009年)で、鈴木氏のコーチングを10年受けておられるそうです。
先日(2010年5月12日)、六本木ヒルズで開催された鈴木氏のセミナーに参加した際、鈴木氏は10年以上続いている
クライアントは10人いらっしゃると仰っていました。本書に登場される方も、きっとそのお一人であると思います。
本書を読めば10年以上、鈴木氏のコーチングを受けたくなることにも納得できます。
本書のテーマは、「リーダーシップ」です。
「軸を決め、ミッションを決め、決めることを決めれば、誰でもリーダーになることができる。
リーダーシップは後天的に十分で獲得できる」ということが、本書の主張です。
「軸を決める」というのは、自分はリーダーとしてどうしたいのか?を明確にすることです。
「ミッションを決める」というのは、自分がリーダーとして周りに何を与えたいのか?を明確にすることです。
本書では、実話に基づく、実際のコーチングセッションを通じて、本書の主題である。「人の上に立つ人
(リーダー)全てが共通に備えておかなければならない要素は何か?」を学ぶことができます。
更に、著者の意図通り「エグゼクティブ・コーチングとはどういうものか?」についても、しっかりと学べます。
本書では、鈴木氏が投げかける質問が勉強になります。
同じ問いを自分自身に投げかけてみることで、どのような答えを導き出せるのか、また、同じ質問を
部下やチームメンバーに対して有効に投げかけることができるのか、そのような事を考えながら読むことで、
実話に基づく話しを読む以上の価値を見出せます。
本書を通じて、特に印象に残ったリーダーに必要な要件を3点挙げます。
1.リーダーは「決めることを決めておく」ことが重要
人は決断できないときがあります。その理由は、「決断する」ということを「決断していないから」であると言います。
右か左か決断する前に、「右か左か決断することを決断する」ことが重要であるということです。
「決断すること」を「決断していない」から「決断できない」という主張に納得しました。
鈴木氏は、「決断するのは、リーダーの仕事である。それは、技術の問題ではなく、意志の問題である。」と仰っています。
2. リーダーは、すぐに答えを見つけようとせず、自分自身に良質な質問を投げかける
困難な状況に陥った際、周囲はリーダーがどのように振舞うのかを見ています。
そのような時こそ、リーダーは質の高い質問を作り出し、自分に投げかけることが重要です。
真のリーダーは、答えを思いつくことに長けているのではなく、答えに至る質問を創る方に長けていると言います。
自分に対して投げかける質問のバリエーションが多い人は、危機をいち早く脱することができます。
3. リーダーは叱責以外に当事者意識を高める方法を持っている
人の動かし方は2種類あると言います。
不安ベースのマネジメント
相手の中に不安を作り出し、相手がその不安を解消させようとするときに生まれるエネルギーを利用する。
相手の根底に常に不安が横たわるような仕組み、そこから相手が脱しようとする力を利用する。
安心ベースのマネジメント
相手に安心感を与え、その安心感を拠り所として相手が行動を起こすことができるように関わっていく。
相手が何もしなくてもその存在価値に対して認知を与える。相手のために十分な居場所を確保し、
相手が自由に創造的に動けるように支援する。
現代の会社組織におけるリーダーシップにおいては、安心ベースのマネジメントの方が機能しやすくなっていると感じます。
もちろん、ストレス耐性が強く、ポテンシャルが高い人材には、不安ベースのマネジメントも有効に機能すると思います。
鈴木氏は、「アメもムチも使わずに人を動かすことができる。それが真のリーダーである。」と仰っています。
更に、別の観点で人を動かすことができる条件を挙げておられます。「変えるべきことを変えることができる柔軟性と
変えるべきではないことを絶対に変えない一徹さの両方を兼ね備えた人こそが、人を動かすことができる。」
コーチング受けたい。エグゼクティブじゃないけど。
★★★★☆
エグゼクティブ・コーチングと聞くと、重役クラスに対するコーチングだと思われるかもしれない。実際にそういった面があるのは否めない。記載されているとおり、コーチング大国アメリカでも、CEO,COO,CFOといった経営陣へのニーズが高いようだ。
実話を元にしているという本書では、最初こそ父の後を継いで突然社長になった主人公へのコーチングが話題の中心だ。しかし、コーチングが上手くいき、リーダーとしてのスキルが身につき始めると、課長クラスにもコーチングを受講させる。今度は課長クラスからの要望で部長、本部長クラスにもコーチングを受講させる。結局、部下を持つ者すべからくコーチングを受けるべしという宣伝なのかもしれない。
しかし、部下がいなくても他部門や他社とのつきあいはあり、コーチングは受けてみたい。本書には、コーチを受ける側とする側のモノローグも入っており、読みやすい。
真のリーダーとはどうあるべきか?
★★★★★
真のリーダーとはどうあるべきか?
この問いに対し、コーチングの視点からの、多角的な思考を導く
素晴らしい本です。
日本のコーチングの最先端を走り続ける鈴木善幸さんの
コーチング集大成といっていいかもしれません。
タイトルで少しびびってしまうのですが、非常に解りやすい文章で書かれています。
鈴木さんの本は、他の本も具体例が豊富なのですが、本書はなんと、まるまる
ケーススタディーとなっていて、小説のように読みすすめます。
クライアントさんのコーチングを通し、クライアントさんの経営する会社の危機を
克服してゆく過程のストーリーです。
自分がクライアントさんになったつもりで、疑似体験できてしまいます。
そこには当然、抵抗勢力や社内政治や親族との関係などがクローズアップ
され、「その時、俺ならどうするか?」とワクワクしながらページをめくってしまいます。
そして、そのコーチングの根底には、鈴木さんのコーチングへのゆるぎない信頼感
を感じることができます。
コーチングの素晴らしさ、コミュニケーションの心構え、それらを
たっぷりと本書より受け取りました。
出会えて本当によかったと思える本です。