志は美しいが、あまりに浅い…
★★☆☆☆
いじめ、子どもの犯罪、自殺などの問題を取り上げ、その原因と解決を考えるという内容。
学校が目標を数値化して、その達成に躍起になるよう追い込まれているといった指摘や、
文科省からの「ゼロ・トレランス」の通達など、ここ数年の「改革」がどのようなものなのかを知ることができました。
また、思春期特有のプライドみたいなものがいじめ被害者が周りに自分の辛さを訴えることを阻んでいるといった指摘には
なるほどと思わせるものがありました。
何度も繰り返される、子どもが自分自身を好きになれること、
自尊の気持ちを持てるようにすることが教育の本質だ、という訴えはまさにその通りです。
でも、内容が浅い。事件や問題の分析の裏にある、社会構造の問題に踏み込んでいない。
私は公立小中に子どもを通わせてるフツーの親ですがその私が見ても、
家庭の経済的な問題や親の育ってきた環境からくる格差が、
子どもたちに深刻な影響を投げかけていることが強く感じられます。
でもこの本には、そうした点に対する目配りが全く感じられませんでした。
そのため、分析が甘い、内容が浅いという印象がぬぐえません。
この本は、教育現場の問題点を指摘して広く一般に伝えることを目的にしていると思えば、
これはこれでいいのかなと思いつつ読みましたが、それにしても浅すぎ。
志は美しいで、次はもう少し掘り下げてほしいです。
毀誉褒貶
★★★☆☆
著者は現場を経てから現在大学教員をしている元学校教師のようだ。本書を語る際にまず褒めておきたいことは、著者がいじめに対して非凡な意見を持っていることである。現在教員では(加えて精神科医も同様だが)「いじめは社会において必要である」「いじめは被害者こそが悪く反省すべきである」との意見を持つものが主流であるが、著者はいじめを真っ向から否定する。思春期の特殊性を重視し教師のいじめ対策を批判する姿勢は全うであり、また「ゼロトレランス」(問題行動を初期で厳罰化対応を取ることを言うらしい)が文科省で最近推進されていることを紹介するなど、教育学の門外漢にとっては学ぶべきところはいじめ方面では多数あった。
だが、著者の学力テストは序列化を推進し子どもの心を壊しているのは良くない、とする意見は全面賛成はしかねる。これまで日教組は、「教師に成果主義を用いるのは負担増大になる」「学力テストは良くない」など主張し、現場で徹底的に手抜きをしてきた。その結果公立学校では事実上教育が望めず結果として塾の乱立につながった。現在学力テストが復活したのは社会主義的運動に終始し肝心の業務に一切関心をよせなかった教師側の責任は非常に大きい。その点に対し反省をせず「子どもの心が壊れている」と文科省の被害者ぶるのはどうか。
また、子どもの心が壊れていることの事例としてこれまで報道されてきた事件にコメントしているが非常に画一的。これでは新聞とテレビのコピペをしたのと全く変わりない。著者の浅い思考回路から、教師の水準が落ちていることを確認した次第だ。一般論として(元)教師の本は表面だけの浅いもので自身の専門領域に対しあまりにも素人くさい(例えば21世紀の国際的教育論の主流は発達障害児のケアへ移行しているが日本の教師の発達障害への関心はほぼ皆無である)ものが多く教師の水準向上こそが文科省批判の前に必要だと思われる。
角川書店
★★★★★
全国一斉テストの波紋の教育現場。児童の学力は教育だけでなく環境、地域、親の職業まで影響する。広がりを見せる「児童格差」の実態を分析した最新教育論。