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教育格差の真実‾どこへ行くニッポン社会‾ (小学館101新書)

価格: ¥756
カテゴリ: 新書
ブランド: 小学館
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基本は森永氏の反資本主義経済学、尾木氏の反競争教育学からの格差批判、だが平等主義のあまり経済以外の面の自由にも無理解になっている ★★★★☆
書名だけだと教育に関する格差問題だけの話かと勘違いするが実際は格差全般の問題を論じている。主に経済や労働の観点から格差を論じる森永氏に対して教育者である尾木氏がそれは教育的にはこうですね、学校にもこういう影響がありますねといった受け答えをするという形が多い。新自由主義がどのようなものであり、どう政策化され誰になぜ支持されたか、何をもたらしたか、何が問題か、どう対抗すべきかといった基礎的な知識が語られ復習もしくは勉強になると思われる。森永氏の反資本主義(反新自由主義)の経済学、尾木氏の反競争の教育学を平易な語り口で知る事には向いているだろう。

無難な書評はここまでで以下は批判。暇な人だけ読んでいただきたい。

尾木氏のことは全然よくは知らないが以前に宮台氏などと共著を出していた。リベラルな人なのかなと思っていたが後に安易なネット批判、モンスターペアレント批判もしているようと知り転向でもしたのかなと思っていたが、本書では社民主義へのシンパシーを示していたりとあくまで左派的であった。が、よく目を凝らすと所々に保守的な見解を潜ませている。例えばモラルの著しい低下をやたらと嘆いていたり、若者が自立心がなく批判精神もなく空気も読めない事を批判していたりだ。批判精神はともかくこれらの嘆き、若者叩きは保守派右派も容易に共有するもの、というより彼らの常套句であると思うがそれを尾木氏が共有しているのには驚く。「日本人の美しい心」なる発言まであるがこうした自分の保守性についての自覚はあるのだろうか。コミュ力、批判精神の欠如を批判するのは保守的とは言えないかもしれないが押し付けがましく非リベラルとは言える。こういった特徴はかつての共著者である宮台氏にも多少見られる。挙句KYという流行語に対する批判や反発ではなく、よりにもよってその逆の便乗、空気が読めない人を非難するなんて事を、このような弱者に優しげな書名の本で展開しているのは驚きである。

教育界にも競争原理主義と成果主義が徹底的に導入され学校間格差、地域間格差、教師格差、体力格差の四つが凄まじい勢いで広がっていると尾木氏は言う。ただ基本は私も社民寄り、反格差寄りではあるものの若干の格差への理解もあってしまっているので全面賛成とはいかない。(例えば先の四つの格差もとりあえずは最初の三つを認めるにしても四つはどうなのだろうと思う)例えば習熟度別能力別授業は左派系の教育書では絶対に批判され本書でもかなり盛んに否定されているが私はあれにも見るべきものや長所はあると思っている。これはエリート育成や効率や競争のためという観点からではなく、自分が無能な学生だった時、出来る人間と同じ教室で同じ授業と同じ基準で測られるのが非常に苦痛であったためだ。そういった苦痛やついていけなさを感じていた子供は多かった。それに対策しての習熟度別授業は著者らやその他の批判者が言うような悪意や競争心の煽り、デメリットだけで片付けるのは不当ではないかという思いが長らくある。本書は習熟度別授業をあまりに悪魔化しすぎており、欠点以外何も挙げようとしないのだ。

それに終わらず尾木氏はこれから体力格差が深刻な問題になるとも言っているがここまでくると私は一人の体力なき運動音痴として体力格差が広がって何が悪いと言いたくなる。こういう問題認識を簡単に受け入れてるとまた体育教育の強化だの、しごいてしごきまくる軍隊的な教育だのが肯定されてしまう羽目になる。実際その傾向は既にあるし、それはしばしば右派の人に支持されているのではないか。例えば自民党のマニフェストにも若者の根性を叩き直し体力をつけさせるための体育の強化は謳われている。それを尾木氏までもが自覚があってかなしにか支えてしまっているというのは注意に値する。

格差は常に程度問題だ。あまりに極端に否定すれば対極の絶対平等主義に至ってしまう。平等主義と言えば良心的だが、極端な次元に至ったそれは換言すれば画一主義だ。著者らがそれだとは言わないが、少なからずそれに寄っているからこそ、彼らが動機などにおいて良心的であるにも関わらず誰もが体力をつけなくてはならない、誰もが親から自立してなければならない誰もが大真面目に努力して働いてなければならない、誰もが同じモラルを持たねばならない誰もが批判精神を持たねばならない、誰もが空気を読めなくてはならないなどといった画一主義に無自覚にか囚われてしまうのではないか。
教育と経済の両面考察 ★★★☆☆
教育と経済の両専門家が対談形式で書いた「格差社会分析の入門書」という位置付け。概ね賛同する。森永さんが唱える「派遣法が諸悪の根源」については、現時点では確かにそうだが、企業が効率的経営を行う上で短期労働力の増減手段が必要な事は事実であり、今後、いかにこの手段を一部の人間の犠牲の成り立つようなものでない形で実現するかが重要。その点で記されているオランダのように「皆で痛みを分かち合う」視点は「日本は過度に正社員とその他の格差があるな」と気付く上で参考になる。教育については「日本はものづくりを中心に国家を再編性し、教育制度もそれを柱に再構築」は賛同。
経済Analystと教育評論家の対談形式で進んでいく読み物です ★★★★☆
本のTitleと森永卓郎という名前に釣られて、殆ど内容も確認せず買った本ですが、そこそこ勉強にはなりました。
私にとって活字、特にこういった類の書籍に求めるものは、映画を観たり、音楽を聴いたりするのとは違って、新たな知識を身につける事です。
そういう意味では、学校教育の現状、経済格差(=所得格差)により教育格差が生まれ、そして広がりつつも、何も手を下さない国。
義務教育の段階で子供達の優劣を数値でもって測り、子供達の将来を決めてしまおうという考え方が罷り通っている現実。
これらを知っただけでもこの書籍を読んだ価値はあったかと。
読み進むに連れて『日本ってホンマニこれで良いのかいな』という思いが強くなります。
格差社会を取り上げた昨今の書籍を読むにつれ、全てにおいて日本という国に対する危機感は強まるばかりですが。

後半は2人の著者の考えが明らかにされるのですが、そこには社会民主主義というIdeologieを中心に据え、
"教育特定財源"や"やり直しのきく学びの保障"という方法論を唱えているのですが、私には非常に唐突な考えだなぁと思えました。
こんな極端な施策を取らずとも、私が義務教育を受けていた30数年前の世の中に戻れば、全て解決するような気がするのですが。

他の方のReviewにもあるように、あとがきでの森永さんのCommentが非常に印象的でした。
『現状を嘆いたり、人をうらやんだりしても何も始まらない。
幸せは毎日の積み重ねだ。今の環境のなかで、精一杯人生を楽しむ姿勢が何より大切なのだ』
「最近は、タバコを吸えただけでとても幸せな気持ちになる」..... ★★★☆☆
通勤の帰りにふと時間つぶしに購入した本です。中身はというと、社会民主主義へのノスタルジーが後半で明らかにされるような作品です。教育界での成果主義とそこでの数量化への流れは日本全体を覆う流れの一側面にしか過ぎません。財界や構造改革派に代表されるinstrumentalな労働観、人間観はそのとおりなんでしょう。メディアや審議会の人選なども書かれているとおりなんでしょうね。また、日本の学者が留学するのは圧倒的にアメリカが多く、それ以外の地域が少ないいうのは、そのとおりでして、その後の政策観へのアメリカの影響という意味では意味深ですね。でも最後の森永さんの独白の部分、「現状を嘆いたり、人をうらやんだりしても何も始まらない。幸せは毎日の積み重ねだ。今の環境の中で、精一杯人生を楽しむ姿勢が何より大切なのだ...うれしいな、悲しいな、楽しいな、感情を素直に口にするだけで、幸せな気分を味わうことは、十分できるはずだ。」の部分には思わず、線を引いてしまいました。