哲学者というイメージから想像される高踏的・衒学的なところは木田氏の文章にはなく、自らの人生を踏まえて、俗物的なところ・悟りすませないところを隠しもしない。各章のテーマである故郷・記憶・運命・笑い・人生行路の諸段階・死・理性・性格・読書・自然・戦争体験・遊び・時間といったトピックスに興味を持った人なら、読んで損はしないと思われる。エリートでもなんでもない庶民が共感できる哲学者は、日本広しと言えどもなかなかいない。
平易で穏やかな文体の中で、この人は教師としてはなかなか厳しい人物なのだろうな、とうかがわせるくだりもあって、そこがかえって興味深い。「性格について」の章にもあるように、他人の押し付ける性格などにわずらわされず、自分の関心を大切にして生きていきたいものである。