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何も起こりはしなかった ―劇の言葉、政治の言葉 (集英社新書)

価格: ¥840
カテゴリ: 新書
ブランド: 集英社
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政治は誰のものか ★★★★☆
現代においては、文学者の役割の一つとして、社会的(政治的なことも含め)発言というものがある。本書は、劇作家である著者がした社会的発言。彼自身の発言の中身については、読者それぞれの立場で様々な意見があるだろう。私は過激すぎるところもあるが、聴くべきことも多々あると思う。
そもそも政治は、誰のものか? 政治家や政治学者の“おもちゃ”ではない。民主主義社会において、政治のことを、なるべく多くの人が発言することが望ましいと私は考えている。できれば、本書のように、日本の作家も読者や出版社にこびへつらうことのない発言をしてほしい。
苦行 ★☆☆☆☆
作家の政治的発言というのはなんとも醜いことが多い。自分の見解と一致するか否かという問題ではない。門外漢が語るのであるから心情的な要素が強くなるのである。この書もご多分に漏れず読み通すのが苦痛であった。例えばたわいない話が出来て気の置けない心安らぐ友がいたとしよう。その人が急に政治的な話題を熱く語り始めたらどうだろうか?主張の正しさ以前に何かしら奇異な感じ、拒絶する感じを覚えないだろうか。
餅屋は餅屋である。よほどピンターに興味がない人には向かない書である。
とにかく抵抗の意志表示しかない ★★★★☆
ノーベル賞受賞者の詩人、劇作家のピンターが、アメリカの独善的思想・行動を強烈に批判したもの。アメリカにとっての"正義"を世界中に押し付けて、結果的に世界最大のテロリスト国家となり、中南米、アフリカ、中東で多くの血を流している現状を何とかしようという使命感に溢れている。アメリカがこれだけの血を流しておいて、「何も起こりはしなかった」ような顔をしている態度にも強い憤懣を抱いている。

日頃からの私の考え方と同様なのだが、当然とは言え、こうした発言が思想・言論界からしか出ない事に無念さを感じる。政界、財界、そして軍事関係者からは敵視されるであろう発言。時代が時代ならCIAあたりから抹殺されるかもしれない発言。なにしろ、アメリカは"民主"国家なのだから。

だが、ピンターは自らが創作する(過激なまでの)詩、劇、そして講演で抵抗を試みる。それしか方法がないからである。だが、こうした抵抗が次第に大きなうねりとなって、アメリカの行動原理を動かして行って欲しいと願わずには居られない。
強烈な一冊 ― 劇作家の良心はしたたかに強い ★★★★★
 とにかく何と言っても強烈な一冊です。読み出すや、思い切り頬に一発くらって、活を入れられた気がしました。
 とはいえ、ピンターが暴力的なわけではまったくありません。彼の文章が暴力的なわけでもありません。むしろ、諧謔と風刺に満ち溢れ、機智に富み、陽気でさえあります。そこに、しっかりと骨太な勇気と、良心の燃え上がる怒りとを感じることができます。アメリカ合衆国と彼の母国英国が、いかに国家的支配欲によって世界を踏みにじっているか、事実的な知識としては知ってはいたものの、たんに「知っている」というにすぎない自分の無責任さを、思い知らされました。「共感し抵抗する」ピンターの姿勢は、現実に積極的に関わろうとする西欧知識人の良き伝統とともに、彼個人の強靭な良心を伝えてきます。
 アメリカを告発する点ではチョムスキーが連想されますが、チョムスキーにはアメリカを批判して民主主義を訴えていながら、逆にその主張やスタンスに民主主義のドグマチズム、「絶対正義」の押しつけがましさがどうも匂う。ピンターにはそういうものがありません。
 ノーベル賞記念講演やインタヴュー、短い新聞記事などをまとめた文集なので、内容の重複も見られますが、読みやすい。特に個人的には「アーサー・ミラーの靴下」と「メディアの実態を暴く」をお勧めします。
 今、私たちに必要なのは、決して冷静さを失って対話を忘れていいという意味で言うのではありませんが、現状認識をふまえ、その現状に対して「怒ること」ではないのか、と思います。
 「ペンの力」を久しぶりに印象づけてくれた本です。