パスウェイ・シミュレーションができる!
★★★★☆
いわゆる「システム生物学」の解説書というよりは、著者らのグループが開発した生物回路のシミュレーション・ソフトウェアである「セル・イラストレータ」の入門者向け解説(宣伝?)を、非常に分かりやすく記した本と考えたほうがよいだろう。
わかりやすい本とは言っても、基礎の基礎から、かなり高度で複雑なシミュレーションモデルの構築やソフトの応用例までと、わりと幅広い内容を含んでいる。したがって、様々な領域の生物学研究者(細胞生理、分子生物、転写調節、さらには進化・多様性に興味をもつ人まで)の興味を惹く可能性があるだろう。そして実際の研究現場で、このセルイラストレータが、データ解析&解釈、仮説の生成や検討に役立つシチュエーションが、あるかもしれない。
実際にレビュワー自身も、この本によってセルイラストレータの存在を知り、自分の研究(分子進化学)で活用して、システムズバイオロジー関連の国際誌に論文を掲載することができた(Feb 2009)。その研究では、複数のタンパク質&小分子間の相互作用のシミュレーション解析に基づいて、生物種間の違いや進化プロセスを考えるという、今までなかなか手が出し辛かったようなテーマに挑むことができた。つまり、セルイラストレータなどのパスウェイシミュレーターが、人間の思考支援ツールとして大変に有用であることを、身を持って知った次第である。
「システム生物学」そのものについては、同著者グループが出している訳本「 システム生物学入門 -生物回路の設計原理-.Uri Alon (著), 倉田 博之 (翻訳), 宮野 悟 (翻訳),共立出版,2008/10/23」も参考になるだろう。
システム生物学がわかる!
★★★★★
この書物はセルイラストレーターと言う遺伝子ネットワークや細胞内シグナル伝達、解糖系などを含む複雑なネットワークに関わる化学反応系、あるいはパスウエーデータベースを材料にして反応パターンとして可視化するソフトウエアの使い方を懇切丁寧に説明したものである。
初心者にとって痒いところに手が届く納得のゆく説明は楽しく、さらに次のステップにチャレンジする意欲を呼び起こしてくれる。ソフトウエアは著者らが開発したものであり付録のCDのそれを使用すれば本文を読みながら実体験として身に付くように配慮されているのはとてもうれしい。
すなわち用意されているアイコンみたいな記号を繋ぎあわせるだけで、恐らくコンピュータの内部では複雑な微分方程式を一生懸命に解いているのだろう。あっと言う間にシミュレ−ション結果の図が出来上がるばかりではなく、数値をテキストファイルとして出力し、エクセルで改めて解析出来るのはとても嬉しい。
このようにコンピュータの支援により生物学者にとっては長らく疑問だった化学反応系の定量化も簡単に出来てしまうすぐれたソフトだと思う。
勉強意欲がでて、もっと複雑な系にチャレンジするには改めてソフトを購入する。しかしこれはインターネット経由なのでそれはそれで現代的だとは思うが、何だか自分のものになった気がしない。1年ごとに契約し直すのも面倒な気がする。あえて個人的に難を言えばこの点が唯一であった。