章が進むごとによくなる、深くなる、泣けてくる。
★★★★☆
著者の長編第1作なので、文章の味わいや小説技巧はまだ熟していないけれど、
それ以上のものがここにはある。
テレビドラマを見ている人は、登場人物の動きやセリフが、映像になって浮かんでくる。
周平は西城秀樹だし、貫太郎は小林亜星、きんさんは樹木希林、
ミヨちゃんは浅田美代子、お母さんは加藤治子、
足のわるい静江姉さんは梶芽衣子(タランティーノ映画でリバイバル)、
今でいえば「踊る」のスリーアミーゴス的な、伴淳、左トンペイ、由利徹。
映画やドラマではよく泣いたが、音楽や本では数少ない。
『寺内』の後半、お祭りの章がある。
にぎやかに、しっとりと、下町谷中の町内祭りの様子が描写されていく。
その中でミヨちゃんだけ笑顔がない。この顛末には、涙が流れた。
著者を含むTVドラマの制作関係者が、タイトルをつけるのにとても苦労し、
ある日、向田さんが青山墓地でひらめいて、久世さんに怒った口調で電話してきたこと。
演出の久世さんが主役の貫太郎役に抜擢した小林亜星さんに対して、
最初、向田さんは大反対していたことなどが、解説に書いてある。
「星5つ」では足らない感じです
★★★★★
ジュリーの歌を聴いた時、ふっと『寺内貫太郎一家』を読んでみたくなりました。
ああ、おきんばあちゃんの部屋は「隠居所」だったのですね。彼女が指先を切った手袋をはめていたのは
記憶していますが、「はね橋」のことはすっかり忘れていました。あったあったと思い出して、ワッハッハ
と笑ってしまいました。
懐かしいです。巨体の亜星さんの演技、白い割烹着姿の加藤治子さんの上品でコミカルな演技、若かった
秀樹と美代ちゃん、抜群の存在感を示していた悠木千帆さん、…伴淳さんの「接吻」というぎこちない字も
確かにありました。
怒られたりイヤミを言われたりしても、誰かかばう人寄り添う人がちゃんといた…向田邦子さんのほかの
エッセイとあわせて読むと、この「かばう人寄り添う人」は向田さん自身だったのではないかと、今になって
深い感動を覚えます。
文句なし
★★★★★
書評を書こうとして、本を手にしただけで胸がいっぱいになり涙がにじむ。
貫太郎、里子、静江、周平、きん、みよ子、イワさん、ため公、花くま―
登場人物のひとりひとりがいとおしい。
茶の間での乱闘、貫太郎の怒鳴り声、ぶっとばされる周平、ごはんをこぼし笑うき
ん。
目に見え、耳に聞こえる。
どこが良かったなどと要素を切り出して評することはむなしい。
この本丸ごと全部、良い。
向田さんは無敵。
生きていて欲しかった。
いいモンは、いいんだね。
★★★★★
石屋を営む寺内家の波乱万丈な物語。
主人である寺内貫太郎は口より先に手がでる一方、義理人情に厚い、シャイな中年デブ親父。
そんな貫太郎が好きでたまらない奥さんの里子。
常に嫌味ばっかり、人が嫌がることをするのを生きがいとし、これからもしぶとく生き続けていくであろう、姑のきん。
貫太郎そっくりな性格を恥じつつも、やはり血には逆らえず熱血漢な息子の周平。
明るて芯が強く、子持ちの男と付き合っている静江。幼少時代の怪我が原因でビッコだが、気にするそぶりは見せないけなげな娘。
そして、両親を早くに亡くしてしまったお手伝いみよ子等…。
彼等とプラスアルファでドンちゃんしていくお話。
有名なドラマの原作になるのかな?
随分前の作品だが、全く気にならない。
個々のキャラクターがきらきらしてて、魅力に溢れている。
そんな彼らが激しくぶつかり合ったときの火花が心を打つ。
このぶつかり合いがとにかく激しくて、激しくて、時には切なくて。
たまりませんな。
これは、小説ではない。
★★★★★
彼女の処女長編小説、直木賞を受賞した作品と比較するとあの凝縮された凄さ上手さは無い。さらっと書かれていて脚本をベースにして放送されたテレビ画面を追っているようだが、私のようにあの番組を観ていた者にとっては、読んでいると頭の中では演じていた役者があの時代の年恰好で動いている。そして字面を追いながら実は自分の頭の中でドラマが蘇えっている。
また、解説の久世氏の文章がとても良い。
彼と向田さんとの付き合いの深さつまり男女、仕事を超えた人と人とのかかわり方が見えてくる。余談になるが彼は彼女のことをいろいろと書いているがその中でこの本は小説として余り上手くないと言っているが、これは、小説でも脚本でもない。詠んだ者の心の中に映像を映し出すフィルムである。
放送されると消えてしまうテレビドラマがここには大切に残されている。