大学1年の夏休みに北海道の襟裳岬の昆布取りのアルバイトに40日間行った。それまでは東京生まれの東京育ちで 自宅から出たこともない生活だった僕としては 他人それも漁師の家に泊まりこみで働くという事は 大変な刺激であり 緊張であった。
出発前に台湾製のニセウォークマン(2000円くらいだった)を購入して 適当に貸しレコード屋でレコードを見繕って ダビングして それで北海道へ旅立った。生まれて初めての青函連絡船で 生まれて初めて北海道に到着したのは1983年の7月のとある一日の午前4時であった。
昆布小屋の二階が住居で 仕事の休みに寝転んで テープを聞いた。その中に「千のナイフ」があり 僕はこれが凄く気に入って 何度も繰り返し聞いたものである。僕にとっての坂本龍一の原初体験には 乾いた昆布の香りがどこかに漂っている。
あれから20年以上経ち、僕も就職し 結婚し 子供も出来た。休日部屋で寝転んで聞く曲のレパートリーも増えたが 「千のナイフ」もその一つである。「千のナイフ」の冒頭の 妖しげな情熱を湛えた曲には まだ 昆布の香りを嗅ぐような気がすることもある。