ココロとカラダが別人の殺人者
★★★★★
突然の大地震に見舞われ、六人の男女が逃げ込んださきは、
〈入れ替わりの環(スイッチ・サークル)〉という人格転移装置。
六人は、一定法則のもと、人格が別の肉体に移行し
ていくマスカレードという現象を繰り返す羽目になる。
やがて起こる連続殺人。果たして犯人は、誰の人格なのか?
ミステリには、《顔のない死体》という定番の趣向があります。
作中で顔が損壊した死体が出てきた場合、被害者と犯人が入れ替わっている、
というのが、最も基本的なパターンなわけですが、本作では、SF的設定のもと、
そのパターンのアレンジが行われたと言えます。
六人の登場人物の人種や性別、そして語学力は、それぞれ異なっており、
どの人格が誰の肉体に入っているかは、かなり判りやすく描かれています。
しかし、そこに作者による巧妙なミスリードが仕掛けられているのです(特に、
語学力というファクターがポイント)。
犯人が誰の人格であるかは直感的にわかる人も多いと思いますが、
犯人を犯行に駆り立てる状況設定や動機、そしてレッド・へリングの
造形などに作者の丁寧な仕事ぶりがうかがえ、単なるフーダニットに
とどまらない傑作となっています。
満足する以外選択肢はない!
★★★★★
ミステリというか、普通に物語の全てが面白い。ぎっしり詰まっていて全く退屈しない。
それが西澤さんの作品の良いところ。トリックだとかそんな事は些事に思えてくる。
西澤さんの作品は読後感が味気なかったり、後味が悪いものも少なくない。
しかし、この作品は数少ない感動的なラストを迎える。
そのあまりの完成度は、満足する他選択肢はないと言っても過言ではない。
是非一読を!
素直に楽しめ
★★★★☆
西澤さんの作品はSF的な舞台設定を用いて、本格的なミステリを書くという独特な物……に見えるけれども、「絶海の孤島」やら「嵐の山荘」といったミステリ定番の舞台も言ってしまえばSF的な舞台となんら変わりないので、そういった舞台設定にだまされることなく純粋に素直に楽しめば良いのでは。
「人格転移の殺人」は意識が他人の器に入れ替わるという機械で起こった殺人劇を徹底的にフーズダニット(誰がやったか)に絞って描ききっている。
一人死ぬたびに本当ならば「誰」は分かりやすくなるはずが、人格転移という設定を使って「誰」かは最後まで分からない。実に巧い。
徹底的に楽しみました。
先達
★★★★★
これでいいのだ〜ってな感じの無責任な設定なんですね、うん。タイトル通り人格が転移した
者同士の中で殺人が起こっちゃってビックラ仰天なんですね、うん。
ミステリにしてはどんでん返しが弱い、パズルにしては凝りすぎ馬鹿、SFにしては神秘性に
欠ける、尚且つ人物の心理描写が気持ち悪いこの作者の魅力は何かというと云うまでもなく
その発想(=素材)な訳だが、それにしたってもっと幾通りも面白い話(過程)に仕上げれる
だろうし、じゃ結局何が好くて読むかと云うとその悟り具合っていうの?俺はわかってるんだ
ぜ!!的な小話とオチがいいんですね、ハイ。
ただ、それが鼻持ちならないと思った瞬間に繋がったらもう崩落だけどね(過程が)。
いや、だからどういうタイプの人間が好む小説かというと知的な馬鹿が好むんだよな(ここ
でいう知的とは結果主義と経過主義の違いが判る頭の事)。まあそういうことだ。
謎の装置
★★★★☆
1996年に講談社ノベルスとして出たものの文庫化。
読み終わってみると、設定がすべてということが良く分かる。どうして舞台をアメリカに選んだのか、登場人物たちはなぜこのメンバーなのか。考え抜かれた作品で、構成の上手さにうならされた。
最近の西澤作品の、いい加減な思いつきだけで書いた駄作とは大違い。
粗製濫造をやめて、この頃の作者にかえって欲しい。