法思想にとどまらない、浩瀚な名著
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下巻では絶対王政から現代思想までを扱っています。
上巻も含めてですが、何度も読み返したくなる名著です。「法」をめぐる思想とは、社会や国家、個人のあり方に関する思想にほかならず、いわば思想そのものともいえます。そして、社会や国家、個人のあり方は時代とともに変化するのですから、法思想史を総合的に理解することは、世界史(主にヨーロッパ史ですが)を理解することでもあります。
というわけで、法思想史だけでなく、ヨーロッパ思想史、ヨーロッパ史に関心のある人に薦めます。
上巻もそうでしたが、複雑な社会や人間の有り様に対して、自然科学的数学的に、単純化する思考方法に対して鋭く批判します。たとえば、
社会・人生は複雑であり、したがって、それに対応するためには、知は多元的で柔軟なものでなければならず、一つひとつの妥当性を大切にする。それゆえそうした知は、単一の原理・法則から論理で構築された体系にすべてを包摂し斉一的に説明する、自然科学の知ではありえない。…じっさいデカルトは、想像を妄念であると排斥した。理科馬鹿的な、共感に欠けた発想の元祖である(44−45頁)
その他、至る所に卓見がちりばめられています。