法思想史というよりは西洋思想史
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タイトルは「法思想史」となっていますが、扱われている範囲は狭義の「法」ではなく、幅広く、「西洋政治思想史」も含め、「西洋思想史」といってもよい内容です。ひかえめにいっても西洋思想史入門書としは白眉といってよいでしょう。
実に丁寧で、単なる羅列ではなく、それぞれの連関性はもちろん、現代の「自由」「民主主義」とのつながりに目を配っています。
この〈上巻〉では項目としては、ソクラテス、プラトン、アリストテレス、古代ギリシア政治史、古代ローマ政治史、イエス、イエス以降のキリスト教、古ゲルマン社会制度、中世のローマ法発見、ルネッサンス、宗教改革、魔女狩りなど、単なる「法思想」を超え、いずれも詳細に検討されています。ところどころ、現代批判、ポストモダニズム思想批判なども織り込んであるのはご愛嬌。
特に興味深かったのは、以下の、理系的思考批判。(270頁)
デカルト・ホッブズとともに始まった数学的思考は、やがて人間論・社会論にも浸透し啓蒙主義の主軸となった.その革新力の歴史的意味ははかりしれないが,他面ではそのことが,理科馬鹿的な単純思考が猛威をふるう事態をも招いた.このため,モラリスト的人文主義が発達させた,人間的事象に対する複眼的な眼・繊細な感覚は伏流化させられていった.この感覚は,今なお続く理科系思考万能の地盤―それは今日のポストモダニズムをも性格づけている;ポストモダニズムはこの点ではすぐれて近代的な思考なのである―のために,ヴェーバーや丸山真男等の少数者を除いて,今日にいたるまで再湧出していない.