心霊写真の歴史的意義
★★★★☆
かつて心霊写真は、宗教的な意欲と科学技術の進歩の融合により誕生した画期的な創作品であり、またある種の芸術でもあった。時は19世紀中後期のヨーロッパ。キリスト教の衰退にとともに「霊」の信憑性も損なわれるなか、だが、「霊」は「写真」という最新の科学的産物のなかに安定的な居場所を見出した。それ以前の「幽霊譚」のように、目撃者の体験や語りに依存することなく、いわば「動かぬ証拠」として人々の前に登場した心霊写真は、神なき時代においてなお死後世界や死者との交流を期待する人々に、またたくまに受け入れられていった。やがて商業主義的な「心霊写真家」の出現や、第一次世界大戦の大量死を契機とした20世紀最大のブームなどを経つつ、写真の大衆化とともにこのスピリチュアル・アートは今なお独自のプレゼンスを維持している。
本書は、こうした心霊写真の誕生と展開の過程を、美術史家である著者が豊富な図解に基づき解説した、翻訳書ながらもとても読みやすい本である。とくに、数々の心霊写真が紹介されるなか、それらと近似した構図をもつ幽霊画や天使/悪魔の図像を、並べて掲載しているところが非常によかった。心霊写真はあきらかに科学技術と心霊主義を背景とした近代的な現象でありながらも、しかしそこにこめられた想像力は、西洋美術史の系譜のなかに同種のものを認めることができる、という事実が一目瞭然となるわけだ。宗教・科学・芸術のいずれの歴史にとっても重要な心霊写真の意義がわかる、優れた本であると思った。