民族と土地の問題を通して、日本の将来とアジアの中の日本を見つめようとされた書
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これは、1976年から2年半の司馬さんの思い出を綴った書です。国内では成田空港が開港し、国際的にはイラン革命がおこるなど騒然とした頃です。この頃司馬さんは、「胡蝶の夢」や「項羽と劉邦」などを執筆されています。日本の近代化の中での医療に携わった松本良庵や、中国の漢帝国建設時の物語を描かれていた時期です。
「砂鉄がつくった歴史の性格」では、鉄器を作り始めた漢時代からの燃料としての木炭の需要について語られています。現在の中国の砂漠化が、この時代からはじまっていることを知ると、当時の繁栄国が、その将来と子孫に大きなツケを廻していることを知ることができます。現代の環境問題の原因のひとつを探ることができます。「坂本竜馬と怒涛の時代」では、竜馬の新しい価値観が、日本を幕末から商品経済に導いていったことが、興味深く記されています。
また、「近所の記」では、司馬さんが住んでおられた土地の歴史を、郷土誌家とは違って視点で描かれています。
民族と土地の問題を通して、日本の将来とアジアの中の日本を見つめようとされた時期だったような気がします。