社会に対する不満
★★★★☆
殺人事件をきっかけにマンションの住人たちの謎が明らかになっていくのだが、主人公の松野敏幸を中心に自分の人生を見つめなおしていく物語の展開がおもしろかった。また、最近の社会に対する不満、たとえば車の排気ガス、クーラーのモーター熱、アスファルトの照り返し、誰もが苛々して腹をたてて、そんな熱を集めたらとんでもない怒りになるといったような宮本輝独特の社会批判も印象に残った。
サスペンスの傑作
★★★★☆
随分と大ぎょうなタイトルで、本の内容を勘違いされてしまうので、マイナスだろう。
確かにこの物語に流れているテーマなのだが、「人間の幸福」というタイトルの本が、
小説としてふさわしいかは疑問だ。
しかし中身は非常にわかりやすい、おもしろい物語だ。
近所で起こった殺人事件をきっかけに、
マンションの住人たちに互いの人間不信や詮索・噂が広まっていく。
犯人が捕まらない状況下で、何度も警察に呼ばれる住人たちは、
ますます互いの人間関係を悪化させていく。
そしてまたその事件のせいで、
不倫や信じられない住人同士の結びつきや関係が浮き彫りになっていく。
犯人は誰だろう?
その謎が物語をスリリングに先を読ませる展開力となっている。
刑事や探偵を主人公にした殺人事件ではなく、
現場を取り巻く住人たちを主人公にしたサスペンスという試みは、新鮮でおもしろかった。
若干、どうしてこの人がこんな行動を取るのか、納得いかない部分も多いし、
結末としての犯人逮捕も、期待外れでおもしろみに欠けるが、
まあ全体としては良かったと思う。
所々に得る感動のフレーズ
★★★★☆
世界的な最高傑作までとは言えないかもしれないので、(私個人的には5★ですが)一般的に合わせて4★にしました。
私の久々の完読の本でした。
他の皆さんが言うように、タイトルは大げさかもしれない。ですが、一つ一つのフレーズが美しい、所々にそんな感触を得た覚えがある。10ページに一回はジーンとくる、あっ!これこれ、そうそう、と同感出来る感覚をしっくりくる言葉にしてもらった感。宮本輝の本でも、これはかなりレアーな本らしく、要は彼らしい本(ドナウや、蛍川)では無いらしいが、この本で彼の本をその後、じゃんじゃん読んだ覚えがある。人生の当たり前のような事をすっきりとしっくりした表現で言葉にしてる作家だと思う。ふとした日常生活だって人生(人間の幸福)という大きなテーマの一部なんであって、こんな小説があっても良いのではと感じる。あるサッカーの監督が選手にアドバイスをする時、パスはこうこうするんだと、人生もそれと同じだと言うらしい。この小説はそんな感覚のものでは?!なので、ストーリーが余りにも日常的な話なので人間の幸福というタイトルはおおげさに聞こえるかもしれないけれど、作者が意図的に付けた、自分の日常に照らし合わせて感じて欲しいといいう希望から付けたのかもしれない。
ミステリーとしては物足りないが・・・
★★★☆☆
ミステリーとしてはちょっと物足りないが、人間ドラマとしてはまずまず。ところどころの粗は気になるが、マンションと言う共同体でありながら他人の集合体と言うものを上手く表現出来ていて、どこにでもありうる話にも映った。
終盤はトーンダウンした感があり、盛り上がりには欠けると感じたが、淡々と流れる物語には本書のテーマとどこか合致しているところも感じられて、あっという間に読んでしまった。
さりげない表現の羅列にちょっと考えさせられるところも多々あり、ミステリーとしてではなく、文学として読む事が出来る。
タイトルほど…
★★★★☆
本の題名からして何だか堅そうな話だなぁ、と思ったのですが、内容は他の宮本輝作品に比べてサスペンス(ドキドキ)度が結構高めの作品で、面白いとまで感じました。それでいて、深いところを突いてくる一冊でした。