良質なサスペンス−当時も、今も
★★★★☆
アメリカ探偵作家クラブ(MWA)の最優秀処女作賞を受賞した、アイラ・レヴィン23歳の作品。
書かれたのが1953年(昭和28年)ですから、半世紀以上前の作品になります。
己の容姿を武器に実業家の資産目当てに三姉妹へ次々と取り入ろうとする青年の末路。
末娘を自殺に見せかけ殺害し、真相究明に乗り出した次女や長女の運命は如何に…。
ザックリとしたストーリーは以上の通りですが、犯人である青年が明かされぬまま物語が
前半まで展開します。この犯人が意外な人物であるところが、秀逸です。スリラー、
サスペンスの秀作です。
但し、作者が丁寧に書き込んでいるため心理や状況の描写が長ったらしいです。
私はポイントを押さえ、読み飛ばしました。
現在のクライムノベルの語りや構成からすると、やや時代を感じさせます。
良質なサスペンスとはこのようなものだったのでしょう。
コーネル・ウールリッチやウィリアム・アイリッシュがお好きな人にはお勧めできます。
野望を抱く男の狂気
★★★★★
富豪の女子大生が自殺に見せかけて殺害される。
姉は妹の自殺に疑問を感じ、独自で調べることに。
スリリングな展開に ページがどんどん進みました。
映像にしたら面白いだろうなと思います。
野望を抱く男の狂気・・・・。怖いです。
恐るべき傑作
★★★★★
背表紙のあらすじに、「戦慄すべき完全犯罪を行おうとするアプレゲールの青年の冷酷非情な行動と野心」と書いてありましたが、まさにその通り。読みながら、何度も心の中で「げす野郎!」と叫んだことか。野心ゆえに、妊娠した恋人が邪魔になり完全犯罪を行う青年の心境が恐ろしい程に伝わってきました。切迫感に押しつぶされそうになりながら一気に読みました。冷や汗ものです。まだ読んでない人に是非味わって欲しい一冊です。
構成の斬新さが光る秀作
★★★★☆
I.レヴィンは日本では映画「ローズマリーの赤ちゃん」の原作者として有名かもしれない。本作は作者のデビュー作なのだが、2作目の「ローズマリーの赤ちゃん」まで何と10年程の期間があるのだ。羨ましい執筆環境である。本作の主人公はベトナム戦争帰りの野望溢れる青年。個人的には、この戦争帰りという設定が非情な殺人を平気で犯す人物像に結びついていると思う。
本作の特徴は3部に別れた物語の構成にある。1部は財産目当てで青年が付き合っていた資産家の三人姉妹の長女が妊娠してしまい、止む無く殺す部分で、青年から見た倒叙形式で書かれている。2部、3部は三人姉妹の次女、三女を各々ヒロインにしたもので3人称で書かれているという凝ったもの。勿論、2,3部にも青年は登場するのだが、それが誰かは分からない。即ち、倒叙物と本格物とを組み合わせた斬新的作品なのだ。当然、長女を殺した青年がその一家の回りに居続けるなんて不自然だという批判もあろう。私もそう思った。しかし、同時にこの新趣向は買えるなとも思った。
最後に青年は正体を暴かれ、惨めな姿を晒すのだが、このスヴィドリガイロフ的青年の怯え・精神的崩壊が戦争体験に起因するように思え、印象的だった。
映画化しにくい作品ナンバーワン
★★★★★
『ローズマリーの赤ちゃん』もいいが、やはりこちらのほうが一押し。しかしこれほど映画化しにくい小説も少ないだろう。それぐらいに小説自体が、スリリングな魅力に溢れているのである。何度読み返しても新鮮さは褪せない。