魔法使いの気まぐれから鉛のおもちゃに変えられてしまった子犬のローヴァー君は、おもちゃ屋の店先で買われて少年の家にやってきた。しかし、海岸でうまく少年のポケットから逃れ、なんとか元の子犬に戻ろうと、魔法使いを探し求めて旅立つ。月の世界や海の底、途方もない冒険を経て再び子犬となって飼い主のもとに戻る、というストーリーだ。
小さな子犬の冒険は、カモメの背中に乗って月まで飛んだり、はたまた自分の背中に小さな翼も生えてきたり、とシュールな夢の世界のようでもある。この小さなローヴァー君の物語は、トールキン一家のお気に入りとなった。その後『ホビット』、そしてファンタジー巨編『指輪物語』を執筆する際の、大きな動機となったに違いない。
なお、早くに原稿が完成していたにもかかわらず、70年を経た1997年まで出版に至らなかった事情は、2人の編者による詳しい解説に述べられている。また、その後のファンタジー作品ではほとんど姿を消しているが、本書に特徴的なしゃれや言葉遊びをはじめ、神話や伝説への言及箇所などの詳細な注釈は、トールキンファンにとってうれしいものだろう。(祐 静子)
魔法使いの機嫌を損ねてしまったことから、ごく普通の犬だったRoverが
おもちゃの犬になってしまい、月や海へ旅して冒険をします。
魔法やドラゴンなど典型的な要素もそろっていて、楽しい物語です。
各地の神話や言語の要素がとりまぜられ、著者の深い学識も感じさせます。