アクションと割り切ればサクサク読めるが、観念の部分に焦点をあてると、
結構深読みできて、テンポが速すぎる。
ポップな割には、良作のSFだと思う。
ただし、誰が読むべき読者かはわからない。
少なくとも歯車として働いた事の無い人間にはまだ早いのでは?
私はこの作品は好きだ。
一寸先は闇を極限まで突き詰めたような「カフカ的」世界観も、その中での「創壊」という概念も、とても面白い。
常識的な・安定し停滞し固着した世界観(というのがある程度共有されていると仮定してもいい、はず)よりも、この小説の中で語られる哲学的視点・流動的な思想のほうがより正確で高等な、そしてより自由な世界認識なのだ、ということもわかる。
しかし、その自由さが怖い。
これは小説で、だから「面白い」でいいのであって、小説の外の「この」現実に同じ世界観を適用して生活することはやはりできない。
物語の中で主人公たちが行う「創壊」はこっちの世界観で見れば暴力、それも「少年犯罪」だ(実際、物語中でも犯罪者として「現実的な」警察機構と戦うことになる)。同じような世界観を盲信して行動にうつすクソガキが「この現実に」いたらと思うと、恐ろしい(実際、そういう狂信的な事件は存在するし)。
ただの暴力シーンならまだいい。それを見たからって人を殺したくなるわけじゃない。みんなそんなにバカじゃない。怖いのは、その暴力に反駁不可能な哲学が付随していて、暴力を肯定し推奨する構造になっている点だ。そしてその一方、世の中には、自分で考えたわけでもない思想に酔ってひどい行動に出る「利口なバカ」ってのが存在していて、二つが合わさればもう、地獄絵図だ。
やっぱり、視野が狭いとか保守的だとかいわれようとも、限定的で不自由な「現実」のなかには大事なものがたくさんあるのだから、それをやたらに壊すのを肯定してほしくはないなぁと思う。
まあ、でも、そんな「非常識」がまかり通るのが「SF小説」なのかもしれないし、物語の中ではどんな恐ろしいことでもすべてが自由で、それこそが小説のすばらしさなのかもしれない。
うーん、もうよくわからなくなった。
ようするに、非常識な小説だということ。面白いけど怖い。