燻し銀の渋さ
★★★★☆
とても地味な作品である。主人公は定年を迎えた保険調査会社の老調査員。田舎駅のホームから転落した老人の死が事故なのか自殺なのかをコツコツと調べ歩いていく。行く先々で様々な人と出会うのだが、人の描写は確かで無駄がない。まさに燻し銀の渋さだ。
残念なのは事件解決のきっかけが偶然のひらめきというところか。ただ、これは清張流でもあり、許される範囲だろう。
最後まで特に盛り上がりがあるわけでもなく淡々と終わるのだが、いい話を聞いたような、しみじみとした余韻が残る佳作である。
地味なテーマながら、“読ませる”筆力はさすが
★★★★☆
’06年度、「第13回松本清張賞」受賞作。この賞は、しばらく歴史小説や時代小説が受賞していたが、この年は現代ミステリーが栄冠を手にした。
’06年、「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門第5位にもランクインしている。
JR膳所(ぜぜ)駅でホームから転落、轢死した老人。彼には心臓を患う幼い孫娘がいた。その命を救うための臓器移植には高額な費用が必要なのだという。死の三ヶ月前に加入していた傷害保険の支払いを巡り、保険会社から調査を依頼されたベテラン調査員・村越の執念の調査が始まる。
果たして老人の死は事故なのか、それとも自殺なのか? 定年退職目前の調査員による文字通り足を使った執念の調査行、そして終盤で二転三転する緻密なプロットはまさに“清張ばり”。
本書は、60才の新人作家・広川純の、デビュー作とは思えない的確で緻密な描写が光っており、地道な保険調査を軸に波瀾に富んだ人間ドラマが、著者の年輪を感じさせる筆力で活写されている。
圧倒的なリーダビリティーを持っており、発売日に即購入して一気読みしてしまった。全選考委員の賞賛を集めたのも頷ける傑作である。
保険金絡みの事件の難しさ
★★★★★
保険金に絡んだ事件の調査は大変だとは思っていたが、その難しさがとてもよく表現されていたと思う。孫が病気で手術にお金が必要な状況に置かれていた場合、損保会社の竹内のように先入観で自殺だと決め付けてしまいがちだが、保険調査員の村越はあくまで冷静だった。この状況でも客観的に自殺・事故の見極めを行い、最後の最後まで事故の証拠を探し最終的に事故の見解を導き出したのは立派だった。ストーリーとしても目撃者が他人の名刺を渡したり、名刺の人物が行方不明だったりと一筋縄でいかない展開がじれったくてとても惹き込まれた。
後味のいい話
★★★★☆
孫娘さんが、海外で移植手術をしなくてはいけないのですが、
なかなかお金が集まらない。
で、傷害保険に入ったばかりの老人が、ホームから転落して轢死。
保険会社は、自殺なら保険金は払わない。
ということで、調査員が・・・
というストーリー
久しぶりに、後味のいい話でした。
派手なアクションもどんでん返しもないけど、
まさしく、松本清張の世界。じっくりとした読み応えです。
シリーズ化できそうな作品
★★★★☆
落ち着いた描写力。保険調査の裏側がよく描かれており、自殺か事故かの判断を下すのに、あれだけの調査が必要なのかと、驚き、また興味深く読めました。保険調査の対象には他にもいろいろあるでしょうし、いろんなケースについて書いて欲しいと思いました。
そういう意味では、シリーズ化できそうな作品。
ただ、読み終えて村越のイメージを思い描くのに、少々キャラクターとしての印象が薄いかなとも思いましたが、それが作品の質を落としていることには、なっていないでしょう。
次回作にも期待します。