あっという間の読了でした。下巻でも、著者独特のアプローチは冴え渡ります。１８９段や１９１段の部分はこれまでの表面的な読み方を越えた深さを示唆するものです。また下巻の最後にある著者（橋本氏）による「あとがき」は、この上下を貫く著者の考え方がわかりやすく呈示されていますので、最初に読んだ方がいいかもしれません。この上下を読んで感じたのは、具体的な指針を徒然草の中に個々に求めるのは浅薄な読み方だという発見でした。むしろ時代が変転し（平安から鎌倉そして南北朝へと）価値基準が大きく変わる中での混迷、この状態こそ、味わうべきなのでしょう。したがって、徒然草の中に多々見受けられる矛盾は時代を反映したものであり、その変貌への対応に苦しむ兼好の姿、これこそが醍醐味なのです。それには、橋本氏の解説はそのトーンとディテールの選択の度合いといい、見事なガイドとなっています。ところで、この上下で扱われた段は、これでもまだ全体の４分の１だそうです。残りは、このガイドで示された道具とヒントを支えに、読者が自分でやってくれということなのでしょうね。

男にとっての効用
10代：原文とわかりやすい逐語訳と吉田兼好モノローグ風の解説が並びおまけに絵まで付いている。古文学習がはかどることうけあい。
20代：若者のモヤモヤを解消はしないが、凋落した王朝の政治・文化と経済大国から停滞した国に転落した今の日本を重ねれば「700年前も今もおんなじもん」と思えて、究極の悲劇に至る前に寸止めの効果あり。
30代：いちばん効用が少ない時期。
40代：「もう若くないしジジイになったらどうするよ？」との不安が「今更じたばたしても仕方なし。ま、ジジィも悪くないかも。」と思えてくる。
50代以上：チラリズムで経験・実力を表に出すことで、若者に煙たがられずに尊敬の念を抱かせるための立ち振る舞いのポイントを解説。
女にとっての効用
男のウジウジする気持ちのメカニズムが分かる。

なお、「桃尻」は徒然草に出てくる言葉で、性的な表現ではなかったということを初めて知った。

徒然草がこんなにおもしろくて、哲学的だったとは知りませんでした。本文、訳文、註と並んでいますが、註だけを読んでも、現代も昔の人も考えることは同じだった（進歩していない）ことがわかり、兼好法師に親しみがわくはずです。
仏教の勉強にもなります。

　橋本治による現代語訳古典。「桃尻語訳枕草子」の実績を見込んで、ＮＨＫからの依頼があり、執筆したという。
　全訳ではなく、抄録である。
　訳文の後に注釈があり、これが非常に良くできている。「吉田兼好」というのは正しくない、というのがよくわかる。
　姓名で言うなら「卜部兼好」、僧としてなら単に「兼好」だ。

　時代背景の説明もうまい。なるほど、そういう情況だったのか、と、初めて知った。
　書くに当たって、参考資料を色々見てまとめたのだろうが、まとめ方がうまく、ただの引き写しにはなっていない。もちろん、筆者にはもとから知識が色々あったのだろう。

　徒然草はある時期に集中して書かれたのではなく、異なる時期に書かれたものが、あとでまとめられたという説があ!るそうで、筆者も、そうではないかと考えている。言われてみればなるほどそうだ、と頷ける。
　「絵本」というのは、田中靖夫の絵がついているから。
　絵の善し悪しについては分からない。