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モロー博士の島 (創元SF文庫)

価格: ¥1
カテゴリ: 文庫
ブランド: 東京創元社
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完全版だよ有難い! ★★★★☆
難破した主人公が辿り着いたのは、獣人を創り上げることに心血を注ぐ狂気の科学者、モロー博士の支配する島だった………。

 SF作家としてのウェルズはまた、人類の進歩、健常なる文明の発展を説いた理想家としても知られていますが、常に幻滅を強いて来る現実と戦い続けなければならなかった彼はまた、その対極にあるものとも向き合って生きねばなりませんでした。ウェルズ29歳の時に発表された本書の原書は、流石に晩年の様な絶望的な焦燥感の色合いは薄いのですが、しかし全篇を覆う「退化」への恐怖、獣性が発現することよって人間が堕落してゆくことに対する強い嫌悪感は、『タイムマシン』等と並んで、後年のそうした葛藤を予言するものとしても解釈することが出来るでしょう。ダーウィニズムの及ぼした影響が、単に象牙の塔内部でのひっそりとした科学論争上のものではなかったと云うことが、直感的に理解出来る作品のひとつとしても、興味深い一書です。

 モロー博士が行っていたのは、外科手術によって生命を人工的に変化させ、その限界を極めると云うことでした。彼の行動原理は「知的情熱」に駆られてのことですが、ウェルズと優生学との関係を考えると、ここでの博士の立場は微妙な危うさを持って見えて来ることでしょう。当時(1986)は無論「遺伝子」の「い」の字もありませんでしたが、こうした、安易な生体操作に対する根強い不安と云うテーマは、現代でも十分通用するものです。ウェルズが正にアイディアの宝庫の人だったと云うことが改めて解ります。
 まあこうしたことについて詳しくは、訳者による解説の方を読んだ方がいいでしょう。

 表紙絵にでっかく『D.N.A.』と書かれているのは、刊行当時そう云う題名での映画化があったからで、でっぷり太って白粉をぬたくったマーロン・ブランドが、御輿に載ったモロー博士を演じており、昔バート・ランカスターが博士を演じていた時より更にB級度が増した感じでした。とにかくそのお陰かどうかは知りませんが、新しいしっかりした訳でウェルズの名作がまたひとつ手軽に読める様になったのですから、創元推理文庫と、松竹東急には感謝です。

 上述の話題とはまた別に、巻末にはウェルズの作品の邦訳書誌が載せられており(無論それ以降に刊行されたものは入っていませんが)、ウェルズのファンならばこれだけでも買う価値はあるでしょう。