幸田露伴『運命』の建文帝逃亡譚はデタラメだったとは・・
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隋の煬帝と明の建文帝、二人の亡国の2代目皇帝たちに取材した歴史評伝。
とは言うものの、(1)煬帝は本当に父文帝をころしたか?(2)煬帝は悪逆非道な皇帝だったか?(3)建文帝は本当にころされずに何十年も生き延びていたのか? …これらの歴史上の通説を再検討して史実を導き出すという部分が多くを占めるので、評伝と言うよりは歴史家が史料からいかに史実を見つけ出すか、あるいはでたらめがいかに平然と転がっていてそれをどう判別するか、という歴史リテラシーがメインテーマと言っていいだろう。
本書の後半部分、建文帝について採りあげた箇所は、(建文帝に取材した)幸田露伴『運命』がいかに史実からかけ離れているかを述べたものだが、私は最近田中芳樹氏が露伴の『運命』をリライトした『運命 二人の皇帝』を読んだばかりで、建文帝逃亡譚は史実だとばかり思い込んでいたので、びっくり仰天した。
本書によると、露伴は『運命』をまるっきり史実だと疑わずに執筆したのだが、その十数年後、尊敬する中国の大学者が「そんなものはでたらめだ」と書いているのを知り、本文の後に「自跋」(自分で書く解説)を付け加えて「これは史実ではないですよ」と断りを入れてお茶を濁したということだ。ただ、ひねくれものの露伴のこと、注意深く読まないと誤りを認めて謝罪している文だとは気づかない(汗)とのこと。
最後に著者の近況に触れたい。文芸春秋のコラム「お言葉ですが」が終了して2年あまり、「新・お言葉ですが・・」が更新中断して早半年になる。その間出た著書は口述筆記による1冊と雑誌記事をまとめた本書のみ。著者の一日も早い恢復をお祈りするものです。