表題になっている「様々なる意匠」や「Xへの手紙」は必読だが、これも一般の人が読んで、それほど面白いとは思わないだろう。むしろ、マキャベリについてとか、論語をめぐる随想が面白いと思う。なかんずく、「政治と文学」という講演体の文章は秀逸。最近の「この人たちはいったいどこをむいているの?」という政界茶番劇を見させられているだけに、ここで小林が述べている政治についての洞見はすごいと感じることしきりである。たがいに相手の欠点に乗じて自己を主張しようとする言説を思想と呼ぶのはおこがましい!、と小林秀雄が今の政界や国際関係を見てもため息をつくだろう。(私見によれば、この文章の副題は「真の思想とは?」ということである。)政治と文学をめぐっての激動を生きてきた人間の言葉には迫力がある。