単行本タイトルにもなる「町奉行日記」は、ドラマ化もされてご存知の方もいるかもしれませんが、江戸から新規に赴任した町奉行が、壕外という藩の権力が及ばない場所を、自らの力で浄化する、推理あり人情ありお笑いありの、痛快小説。
どんな人でもきっと楽しめます。
本書には全部で10の短編が収められています。どれも力作で、外れはありません。周五郎をあまりよく知らない人でも読んでみてください、きっと好きになります。
ワタクシがおすすめしたい「落ち梅記」はこの短編集の中程に出てくる目立たない作品だが、青年時代からの決別と㡊??うか、大人になる事の喪失感をバックテーマにした美しい短編だ。あらすじを書くと長くなるので省略するが、登場人物、その相関関係、積み上げていくエピソードそして手鏡や梅の実一個にいたるあらゆる道具立て全てが完璧に美しく配置されている。この雰囲気は江戸時代というより大正ロマンの城下町がふさわしい。惜しむらくは主人公の金之助がお人好しにも程がある!ということだが、この無理を江戸の封建時代に設定を置く事で解消している。エンディングも見事!裁きをする側・される側に分かれた親友同士の結末はどう決めてもしこりが残ったであろう。ここを雨中を立ち去るヒロインの後ろ姿に落ちる梅の音(これは主人公の連想)になぞえて「……あの時も雨が降っていた」と結ぶこの余韻の深さ!評論家めい!た分析をしてしまったけど、ワタクシは本当に感動した