大概の日本人が生来にして仏教徒であるように、著者はカトリックであった母親の影響で、幼少の頃に洗礼を受けている。
押し付けがましいと感じていたのか、そのころはキリスト教の教えは、自分にはしっくりこなかったという。
しかし、次第に教えを受け入れてゆき、最終的には著者の宗教観を「沈黙」という作品にまとめ上げている。
そこに至る過程をつたない仏教説話を例題にあげ、すこしでもわかり易く伝えようとしている。
そこからは、キリスト教を含め宗教に対する真摯な姿勢が感じ取れる。
人を一様にくくれないのと同じに、宗教観もひとそれぞれ違っていいのではないかという、著者の広いスタンスの物腰に共感を覚えた。
「(テイヤールの流通している諸著作が)カトリック教義に反する曖昧性や深刻な誤謬を含んでいることは十分に明白である。
それゆえ、・・・聖庁は、全ての教区司教、修道会上長、神学校校長、大学総長に、テイヤール・ド・シャルダン神父と彼の追従者の諸著作によって引き起こされている危険から、人々の精神を、とくに若い人々のそれを守るように強く勧告する。」 (WARNING REGARDING THE WRITINGS OF FATHER TEILHARD DE CHARDIN ,Sacred Congregation of the Holy Office )
以上のようなヴァチカンからの警告にもかかわらず、またそれは現在も何ら撤回されていないにもかかわらず、遠藤周作や上智大学教授百瀬文晃師、オリエンス宗教研究所をはじめとして、日本のカトリックの中にはテイヤールの教説を支持する人々が数多く存在し、またその言説は広い影響力を及ぼしています。大変危険な状況です。
テイヤール主義は、「進化する神」という思想を提唱している点で、神の不変性を主張するキリスト教の正統的教義と正面から矛盾するばかりでなく、神智学・ニューエイジ的疑似宗教にかぎりなく接近しています。現にニューエージャー自身が、自分たちの思想の先駆者としてテイヤールにしばしば好意的に言及しています。(ファーガソン「アクエリアン革命」実業之日本社など参照。)ニューエイジ運動は教皇ヨハネ・パウロ二世の著作「希望の扉を開く」(新潮文庫)で、「新たなグノーシス主義」として鋭く批判されました。
テイヤール主義に関する最も徹底した批判文献としてつぎのものをおすすめしておきます。
Wolfgang Smith,Teilhardism and the New Religion (TAN Books)
ISBN 0-89555-315-5