凛然たる詩魂の所産
★★★★★
アンソロジストとしての塚本邦雄の、単行本しては最大の仕事がこれである。一千首の和歌を収める。新書版なので持ち運びが可能。満員の通勤電車の中で立ち読みしては、多くの癒しの時を得た。自身の短歌作品では、歌の滅亡を何度も予言した彼が、序文である「千歌の序」では、「心ある人にとって、詩歌は永劫に新しい命を持ち続ける。」と断言している。記憶すべきことであろう。そして、本書の「埋もれてはならぬ価値を持ちつつ、ともすれば紛れ易い歌を、極力採り、かつその真価を称揚したこと」という方針は、同時代の若い作家たちの歌を称揚する結社誌『玲瓏』での選歌に通底していく。塚本は、つねに自らの詩魂以外に、いかなる権威にも右顧左眄しなかったのだ。997「夜もすがら心の行くへ尋ぬれば昨日の空に飛ぶ鳥のあと」仏国。