評論
★★★☆☆
著者が認知心理学の研究者という事から本書に興味を持ったのだが、残念ながら「集団主義」と「個人主義」がほぼ無定義的に使われており、過去の日本人論を扱った文献について書いている。
だが著者自身は実験心理学のような実験を行ったものを書いているわけではない。有名どころの研究についての日本人論の社会学?といっても良い雰囲気があるが、どうも評論の域を出ていない。
これは力作!
★★★★★
かつて日本に限らず世界中で多くの人達が信じていた「日本人は(他の民族より)集団主義的」「アメリカ人は(他の民族より)個人主義的」という特性が、実は根も葉もない俗説に過ぎなかったことを明らかにしたここ数十年の学術的成果を、専門家ではない一般読者向き解説した本。
一般向けとは言え、ある程度統計学や心理実験の基礎を知らないと、理解しきれない部分があるかも知れないが、広く信じられてきた俗説の具体的内容から、その俗説が記載されていた書籍(俗説を主張したいわゆる識者達の実名も含めて)、「集団主義」という日本人論に根拠が無かったことが解明された過程、更には、日本人論、アメリカ人論も含めた民族論そのものがいかがわしい事を示す根拠や、誤った日本人論が広まった理由(過去の文献という状況証拠から推察される仮説)、人間が現実とは異なる固定観念に陥ってしまう心理学的根拠まで解説した、大変丁寧な解説書。
筆者が学者生命を賭けた、読み応えのある大作。
人前で民族問題を語りたいなら、基礎教養の一つとして読むべき一冊。
独自の文化があるからといって、独自の行動様式があるわけではない。
関西人には驚くべき事実誤認もあり、残念。
★★★☆☆
従来の安易な「日本人=集団主義」論を排す全体論調はやや冗漫にせよ説得性があるのだが、1箇所「日本語には私的自己が確立されていることを表わす『自分』なる語がある」という、関西人にとっては馬鹿な!と直感する事実誤認があり、白々しい気分にさせてしまう。
具体的には、関西の会話では自分=あなた(二人称)としても頻繁に用いられる。p105「・・・泳げないと信じている」の3つの例文に即して説明すると、
第1例文「私は、自分は泳げないと信じている」は、関西弁では
「私は、あなたは泳げないと信じている」の意になり得る。
第2例文「君は、自分は泳げないと信じている」は、関西弁でも
「君は、自分自身、泳げないと信じている」の意だが、
第3例文「彼は、自分は泳げないと信じている」は、関西弁では
「彼は、あなたは泳げないと信じている」の意になり得る。
WEBにはこうした関西弁の「自分=相手のこともいうフシギ」というサイトがあふれているから、ピンと来ない東京弁話者でも容易に確認できる。関西弁が日本語の重要方言であり、歴史経緯や使用人口の数を考えると、「『自分』は私的自己のみをあらわす」という命題は、日本語一般を論じた場合は限定的にしか成立しない。著者のこの命題は筑波大の廣瀬幸生氏に拠っているのだが、廣瀬氏はなんと京都出身であるにもかかわらず「彼は、自分は泳げないと信じている」の「自分」を、関西弁でも「あなた」にはなりえないとしている。WEB時代にあって驚くべき見解である。
著者が、著者のオリジナルではないにせよ、廣瀬氏を無批判に引き写し、調査やWEB閲覧さえせずに本論で主張するのは軽率すぎるだろう。
その気になれば疑わしさはほかにもある。ミルグラムの有名な「アイヒマン服従実験」引用がその一つ。権威者に囲まれた状況下では人間は国民・階層・人格・イデオロギーと無関係に同じような行動をとるというものだが、この実験結果を「日本人集団主義論」の反証に使うのは
著者のバイアスではないのか。「全体俯瞰を禁ずる近代官僚主義の桎梏――個人責任を最小化したときの人間行動」の文脈で論じるべき実験結果ではないのか。
日本人は集団主義?否
★★★★☆
本書に挙げられた実験で、真に文化・社会を捉え、日本人の主義的行動を立証できたことになるのかは甚だ疑問である。実験には少なからず条件が付随するので、行動における選択肢が限られてくる。本来、実験の目的は結果であり、プロセスではない。実験には、人為的に結果を導くための、意図された作成目的があり、被験者はまるで、選択肢として意図的に用意された数本のレールのうち、選択した一つの上を、意思なく走っているようである。意思がないため、結果とプロセスの因果関係もない。単にどのレールを選んだかを調べるだけであり、ただ恣意的に結果を求める観測者の都合に合わせているとしか思えない。実験という狭い範囲での結果が、広範多岐な文化を捉えることは、やはり妥当ではない。文化や社会は不特定多数の個人が作るわけではない。文化や社会は、不特定多数の集団が作るのである。加えて、サブカルチャーの出現、発展に伴い、文化・社会は今日においても成長し続けている。文化や社会はその確立されるまでのプロセスに意義があり、つまり、本書に挙げられた実験では、文化・社会の成長過程の間に結果を求めることになり、一時的な結論しか導き出せないのである。
文系の検証
★★★★★
これから論文を書かなければならない大学生に読んで欲しい。
なになにという通説がある、として、その通説の定義を明らかにし、それを検証するアイディアを練り、ひとつひとつ明らかにしていく。
また、原典に当たり、正確になんと書いてあったかを確認する。
こういったことが、本書では「日本人は集団主義である」を例に行われている。
はやりの新書などでは、こういった部分が書ききれなかったりとばされていますが、ハードカバーだけあって、必要なことのすべてがみっちりあげられています。
”良書”という言葉の定義に従って作ったかのような本です。