新選組では土方歳三と沖田総司、 赤報隊の相楽総三、火消しの新門辰五郎、薩摩の西郷吉之助、幕臣の山岡鉄舟、土佐の坂本龍馬、薩摩の人斬り中村半次郎等々‥‥まさに幕末の生んだ時代の寵児が勢揃い。これに侠客の次郎長が絶妙に関わって、佐幕倒幕に偏らず幕末を人で語った姿勢には感服の極みです。
特に相楽に関しては、よく調べた形跡の窺える非常に細やかな叙述で、その人生の辛苦が痛いほど伝わってきて、めちゃくちゃ切ないです。 次郎長の視線も相楽には最期まで温かく注がれ、ラストは相楽に相応しい最高の餞で締めくくられます。
「草莽」とは吉田松陰が遣った言葉だと思いますが、富みも権力も持たない小さな存在が、時代に真剣に向き合い、人知れず大望を胸に生きて斃れていく‥‥けれどその想いはまた一人の草莽に受け継がれ、その容易く時代に呑まれるほどの微弱な存在は、それでも生きて行くのだと謳いあげたこの作品は、ひたむきな命たちの挽歌です。