一般的なガイドブックでなく専門性が高い本
★★★★☆
まず断っておきたいのが、本書は鉄道を通した、スイス観光を目的とした観光ガイドブックではない点。「氷河急行」や「ゴールデンパスライン」等、スイスには魅力的な観光列車が存在し、年間を通して多くの日本人が利用している。このようなスイスを列車で観光するためのガイドブックとして、本書は存在しているのではない。事実、本書中にもそのようなくだりは見られない。本書はそのような一般的な観光客向けの書ではない。スイスガイドブックとして本書を購入すると、期待を裏切られる。
筆者は新進気鋭の工学博士。専門は土木工学と著者紹介にあるが、本書は氏の得意分野であろうと推察される社会工学、とりわけシステム工学の観点から、スイスの鉄道ダイヤや運賃の仕組みについて、分析・考察を行っている。すなわち、本書はスイス鉄道における「時刻表工学」いえる内容となっている。それゆえ、本書を読み解くには、一般的な時刻表に関する知識(『トーマスクックの時刻表』が理解できる程度)及びスイスの地理等、それなりの予備知識を必要とし、一般向きとは言い難い。この点をクリヤーできる人にとっては、専門性が高く、これまでにあまり類がない書として楽しめるのではないだろうか。