アルゲリッチによる演奏（80年のﾗｲｳﾞ）を、南米女性の激情のほとばしりと評するならば、上原彩子のそれは、まさに大和なでしこ、手弱女(たおやめ)の、秘めたる情念の吐露とでも言おうか。日本人女性ならではの肌理の細かさ、ていねいさ。そして、優しくたおやかで、それでいてしっかりとした芯がある。アルゲリッチの“強さ”に対して、こちらは“凛”としている。
　それぞれを聴き比べて、どちらがどうとは言えない。両者の素晴らしさの次元が異なっているから、とても比較できないんだ。これはいったいどうしたもんだろう。悩む必要はない。そう、両方持ってればいいんだ！

展覧会の絵をいくつか聞き比べていて、このCDもチャイコフスキーよりは
ムソルグスキーにひかれて買いました。
ですのでこのレヴューも展覧会寄りです・・・。

いやしかし、渾身のチャイコフスキーですね。
漫画などでよく、汗が飛んで光に当たってキラキラしている映像がありますが、
特に１楽章のファンファーレの後がそんなイメージです。

展覧会の絵では、「こびと」の不気味にうごめくような演奏にひき込まれました。
ものすごいエネルギーを感じるのですが、強弱も計算されているようで、
コントロールの効いた演奏だと思います。
「ババ・ヤーガ」から「キエフの大門」に入るところも、勢いでなだれ込むような
ようすではなく、最後のｆｆでの盛り上げを考えてだと思うのですが、
やや抑え目です。
ほかにはリヒテル版とホロヴィッツ版しかもっていませんが、また聞き比べてみます。

　人気曲チャイコフスキーのP協は、ギレリス＝ライナー、アルゲリッチ＝コンドラシン、リヒテル＝カラヤン等々
これまで多くのピアニスト達によって録音されてきた。
　それら数々の名演を聴きながら、いつも心の中で熱く鳴っていた理想のチャイコフスキー。
　上原の演奏は、その理想のチャイコフスキーが現実の音となって眼前に展開する。
　曲の冒頭からゆっくりと、しかしあくまでロマンチックに歌う。ピアノソロはどの旋律も表情豊かだ。
指揮のデ・ブルゴスとロンドン交響楽団も上原の表現にぴたりと合わせて素晴らしい。
特に第一楽章でのソロとオケの掛け合いでの思い切った変化、最終楽章での大きくためてタイミングを合わせるところなど、鳥肌ものである。
　録音状態も素晴らしいが、この演奏の醍醐味を味わうためには少しボリュームを上げて聴きたい。
　この曲をお好きな方には是非お勧めします。

ライブで聴く上原さんのピアノは実にスケールが大きくロマンティックで、時にエキセントリックなまでに個性的な表現を見せるのだが、しかもそれを無理なく自然に紡ぎだしていく才能をもっているのである。何でもないように思われる細部から、実に大きな独自な世界を展開してしまう表現力は大変なものだと思う。しかし、このチャイコフスキーとムソルグスキーはそのような上原さんの持ち味があまり出ていない。清潔感があり洗練されているが、それ以上のものではない。大人しすぎるのである。この録音がどのような事情と状況で行われたのかはわからないが、彼女らしさは発揮されていない。チャイコフスキーなど、N響と共演したときの熱演とは比べようもない。
星３つはちょっと厳しいが、上原さんにはさらに上を望みたい。昨年結婚され、ご出産も近いようである。今後どのように活躍されるのか、見守って行きたいと思う。（ところで、なぜこのディスクは国外では発売されないのだろうか？　輸入盤を待っていたが、出そうもないので国内盤を買った）

彼女はどのように演奏するのか？
ゆったりとした出だし。
かといって間延びしているのではない。
歌うようにピアノを演奏していく。
軽やかにかつ生き生きとした演奏♪
うきうきした気分になる。
演奏後思わず、ヴラァボーと叫んでしまった。